▼328▲ 初々しいバカップルにありがちな観覧車での座り方
一日フリーパス券を購入して入園したグレタ、イングリッド、エイジンは、
「まずは観覧車よ!」
テンション高めのグレタの提案に従い、十五分程で一周する直径約百メートルの大観覧車へと直行した。
ゴンドラに乗り込むと、イングリッドはグレタとエイジンを片側の席に並んで座らせ、
「もっとお嬢様の方に寄り添ってください、エイジン先生。では撮ります」
向かい側の席から、二人をデジカメで撮り始める。
「次は、お嬢様を抱き寄せてディープキスをしてください、エイジン先生」
「やり過ぎだ。前と後のゴンドラから丸見えだぞ。いたいけな子供達の楽しい気分を壊すな」
イングリッドによる子供の教育上よろしくない要求を突っぱねるエイジン。
「じゃあ交替よ、イングリッド。今度はあなたとエイジンが並んでる所を私が撮るわね」
嬉々とした表情のグレタはイングリッドからデジカメを受け取り、エイジンをイングリッドの方の席に移動させた。
「サングラスは外した方がよくない?」
「はい、お嬢様」
「二人とも恋人同士っぽいポーズを取って」
「では失礼します」
エイジンの左隣に体を密着させて座るイングリッドは、グレタの要求に応じて、エイジンの太ももの上に手を置き、
「さ、エイジン先生もどうぞ」
自分の方の太ももにも手を置く様に促した。
「ちょっと違和感ないか? こういうのはどちらか一方が相手の太ももに手を置いて、その上に自分の手を乗せる方が絵になりそうなんだが。互いの手がクロスしてると、何かこう、くどいと言うか、不自然と言うか」
その提案に異を唱えるエイジン先生。
「付き合い始めて間もない、初々しいカップルという設定です」
「だったら、なおさら過剰なスキンシップは変だろう」
「成人向け漫画では、初々しいカップルが並んで座って手をクロスさせて互いの股間をまさぐりあう構図は割と定番ですが」
「ちくしょう、ハリセン持って来るんだった」
「意外と、付き合いの長いカップルという設定ではあまり見ない構図なんですよね。こう、正面切って向き合えない事で、まだ恥ずかしさが残っている二人の初々しさを表現しているのかもしれません」
「恥ずかしさが残ってたら、絶対やらねえよそんな事」
「付き合いが長いカップルの場合、授業中の教室の一番後ろの席に並んで座ってこっそりと互いを高め合ってから女の方が上体を倒して口で」
「もういい、しゃべるな」
エイジンはイングリッドの妄言を遮ると、太ももの上に置かれた相手の右手を、自分の左手で、ひょい、とすくい上げ、そのまま指と指を絡ませる様にして、ぎゅっ、と握った。
「なっ……!」
「初々しいカップルなら、せいぜい『恋人つなぎ』位だろ」
不意を突かれたのか、顔を赤くして動揺するイングリッド。そのシャッターチャンスを逃さず、デジカメに収めるグレタ。
「ひ、卑怯です、エイジン先生。『手は第二の性感帯』という格言を知らない訳じゃないでしょう」
「『手は第二の脳』なら聞いた事があるんだが」
「次は私とも『恋人つなぎ』して、エイジン!」
観覧車のゴンドラの中で騒ぐ、いい年した大人達。
「あのさんにん、もめてるね」
「もめてるね」
「『しゅらば』かな?」
「『しゅらば』だね」
それを楽しそうに見物する、前後のゴンドラの中のおませな子供達。




