▼326▲ 裸族に衣服を着せるという難問
やがて通常トレーニングを終えたグレタが小屋に戻って来て夕食となり、食休みを取ってからガル家の敷地内を三人で軽くジョギングした後、
「こうして当たり前の様に一緒に風呂に入ってる状況ってのは、どうかと思うんだが」
いつもの様にグレタとイングリッドに挟まれた状態で湯船に浸かりながら、ふと我に返るエイジン先生。
「最初は恥ずかしかったけれど、もう慣れたわ。エイジンになら裸を見られても平気よ」
エイジンの右肩に自分の左肩をくっつけたまま、平然と言ってのけるグレタ。
「確かにどうかと思います。毎晩風呂とベッドを共にしている若い男女が、頑なに最後の一線を越えないのは不自然極まりありません。これがエロゲーならユーザーからクレームが殺到しますね」
エイジンの左腕に自分の右胸を押しつける様にして抱きついたまま、平然と言ってのけるイングリッド。
「たまには自分達が名家のお嬢様とメイドだって事を思い出した方がいいぞ」
「名家のお嬢様だって、裸にならなければお風呂に入れないわ」
「名家のメイドもまた然り、です、エイジン先生。お背中をお流ししますので、シャワーの前までどうぞ」
答えになってない答えを言ってのけるグレタとイングリッドによって、両脇から抱えられる様にして湯船から引きずり出され、なしくずしに二人に上半身を洗われてから自分で下半身を洗い、お返しに二人の上半身を洗ってやった後で、一人先にバスルームを出るエイジン先生。
結局、その夜もエイジンの寝室の大きなベッドの中、三人は全裸で横になり、
「せめて、寝巻きを着ないか?」
「嫌よ。エイジンとこうして直にくっついていたいの」
「そろそろ限界ですか、エイジン先生? 無意味なプライドを捨てて、素直に一線を越えれば楽になれますよ?」
いつも通りの「それなんてエロゲ」状態。
「――てな具合で、昨日も全裸のグレタ嬢とイングリッドに寝巻きを着せる事は出来なかった訳なんだが、アラン君はどうすればいいと思う?」
「自分で考えてください!」
翌朝、エイジン先生に倉庫に呼び出され、いつも通りに雇い主と同僚の生々しいエロ話を聞かされて赤くなるアラン。
「あの二人を監督指導する立場としては、慎みと恥じらいと一般常識を持たせてやりたいんだが、中々上手く行かない」
「エイジン先生が相手だったら、その三つは要らないんじゃないですか」
「俺がそんなに恥知らずに見えるか」
「いえ、その、お二人共、いずれはエイジン先生の奥さんになる訳ですし」
「しれっと事実を歪曲するな。そんなに重役の椅子が欲しいのか」
「欲しいです!」
目をかっと見開き、声を大にして訴えるアラン。
「ちょっとは本音を隠せ。大丈夫、アンヌはアラン君がどんなに給料が安くても見捨てたりしない」
「すみません、ちょっと気が動転してました。前に言ったかもしれませんが、エイジン先生に結婚を無理強いするつもりは全くありません」
「本音を聞いた直後にそう言われても信憑性ゼロだな。まあいい。それはともかく、今日はこれからあの二人と遊園地に行って来る」
「遊園地? 三人でデートですか?」
「ノベルゲー制作に使う素材集めだ。背景とかイベントシーンの一枚絵に使える資料写真をそこで撮りまくる」
「まあ、実質デートみたいなものですね。どうぞ楽しんで来てください」
「遊園地に行くのと引き換えに、寝巻きを着る事を承諾させようかと思ったんだが、『それとこれとは話が別よ』、『誰がお金を出すと思っているんです』と拒否された。エサだけ持って行かれた形だ」
「エイジン先生でも、人を言いくるめるのに失敗する事があるんですね」
「何、失敗が成功の布石になる事もある。人を騙そうと思うなら、あせらずじっくり構える事さ」
さも良い話の様に、詐欺の心構えを説くいつものエイジン先生。




