▼325▲ ベッドで彼女の寝顔を見つめる彼氏
「今日はクラッカーにクリームチーズと謎のジャムを付けてお召し上がりください」
珍妙なエロゲ制服からいつものエプロンドレスに着替えたイングリッドが、キッチンのテーブルについたエイジン先生の背後から抱きつき、自分の唇を相手の右耳に軽く触れる位に近づけ、甘い声で囁いた。
「さっきは悪かったよ。謝るからいい加減離れてくれ。この状態だとすごくモノが食いづらいんだが」
肩の上に乗っかって来て食事の邪魔をする猫に閉口する飼い主といった態のエイジン先生。
「この態勢だと、椅子の背もたれが邪魔で、自分の胸をエイジン先生の背中にくっつけて『あててんのよ』が出来ないのが残念です」
「椅子の背もたれよりあんたの方が邪魔だよ」
そう言いつつも少しは悪いと思っているのか、あえてイングリッドを振り払おうとせず、好きにさせておくエイジン。
「とりあえず、この辺で勘弁して差し上げます」
エイジンの耳をペロッと一なめしてからホールドを解除し、自分の席に戻るイングリッド。
「猫でも憑いてんのかあんたは。それはさておき、クラッカーとクリームチーズはいいとして、その『謎のジャム』って何だ? 見た目はオレンジ色で普通にオレンジマーマレードっぽいが、裏をかいてアプリコットか? 意表を突いてニンジンか?」
「エロゲーと言えば、必ず一人はいるメシマズヒロインの作る『得体の知れない料理』がお約束です。さ、どうぞ、何も考えずサクッと」
「あんたが先に食え」
「正体を知っている者が先に食べても面白くないでしょう。コント的に」
「ゲテモノ料理を食わされるお笑い芸人か俺は。まあ、あんたの事だから、食い物を粗末にする様な真似はしないと信じてるが――」
クラッカーに謎のジャムを乗せ、少しためらった後で口に運び、
「あ、なんだ、これパイナップルジャムじゃないか。普通に美味い」
「喜んで頂けた様で何よりです。本当はクレンジングジェルをプリンター用インクで染めたものをお出ししても良かったのですが」
「俺を殺す気か。流石にそこまであんたに恨みを買う様な真似をした覚えはないぞ」
一応抗議してから、紅茶を一口飲むエイジン。
「冗談です。で、話をエロゲーに戻しますと」
「戻すな」
「純愛モノのエロゲーでは、料理に睡眠導入剤を混入する場面もよくありますね」
「ねえよ。どんな鬼畜モノだ」
「主人公の男が晴れて結ばれたヒロインに、『君の寝顔が好きだよ』とか言ってみたり」
「純愛ゲーか鬼畜ゲーかで意味がかなり違って来るな、そのセリフ」
こうしてティータイムの会話は、また碌でもない方向へと進んで行く。




