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古武術詐欺師に騙された悪役令嬢は今日も無意味な修行に励む  作者: 真宵 駆
▽おまけ3△ 古武術詐欺師は悪役令嬢を巻き込んで今日もよからぬ事を企む

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323/556

▼323▲ 少年と犬のハートフルな物語

 修行と称し、グレタに戦闘機のプラモデル製作を言い渡してから、早や二週間が経ち、


「よし、隼、鍾馗、飛燕、疾風、五式と一通り完成させた事だし、次の修行に移ろうか」


 毎日のプラモ三昧にもそろそろ飽きたと見え、例の倉庫で次の「修行」のネタを仕入れて来たと思しきエイジン先生が、大きな紙袋を手に提げて稽古場にやって来る。


「写経、プラモデル製作と来て、今度は何? ペン字? 鉄道模型? どうせ若い女の子向けじゃない事をやらせるつもりなんでしょ?」


 すっかり旦那の趣味についていけない妻の様な心境になっているグレタ。しかし結局の所、エイジンに遊んでもらえるのなら何でもいい、というのが本音ではあるのだが。


「ゲームだ」


「どんなゲーム?」


「あんたが自由に決めていい」


「あら、意外ね。私の好きにさせてくれるの?」


「ああ」


「そうね……じゃあ、ヒロインの危機をヒーローが救うお話がいいわ! そういうゲームはある?」


「よし、テーマは決まったな」


 そう言って、エイジン先生が紙袋から取り出してグレタに手渡したのは、ゲームではなく、  


「え、何この分厚い本」


「ノベルゲー制作の入門書だけど」


 やたらスカート丈が短いセーラー服の上に白衣を羽織ったメガネの美少女が、指し棒を斜めに構えて立ち、こちらに笑顔を向けている萌え絵がデカデカと表紙に描かれた本だった。


 タイトルは「犬でも作れるノベルゲーム入門」である。


「自分で作るの!?」


「これも修行だ。説明書の通り組み立てれば一応完成するプラモデルの次は、自分の思い通りに作れるノベルゲー制作に挑戦する」


 混乱するグレタを前に、さらに紙袋からノートパソコンを取り出して床に置くエイジン先生。


「私、ゲームなんか作った事ないんだけど」

 

「大丈夫。簡単な物なら小学生でも作れる。その本に付いてるノベルゲー制作ソフトには、絵や音楽の素材が予め用意されてるから、それを使ってお話だけ作ればいい」


「いきなりそんな風に言われても、何が何だか」


 混乱しつつ、本のページをパラパラとめくるグレタ。キャラ紹介ページで指を止め、


「ええと、ここに出ているキャラクターを、そのままゲームに使えるって事?」


 エイジンに尋ねる。


「そう。その絵の表情や仕草や服装を物語の展開に合わせて自由に変えられる」


「だったら、ヒロインはこの娘がいいわ」


 グレタが指差したのは、金髪縦ロールでツリ目気味のいかにも悪役令嬢っぽい美少女の絵だった。


 何の事はない、自分に似ているキャラを選んだらしい。


「よし。じゃあ、試しにそのキャラを実際にゲームで動かしてみよう」


「今すぐ出来るの?」


「簡単なゲームのプログラムを事前に作って来た。そこで使われているキャラをこの女の子に差し替えればいい」


「女の子の名前を『グレタ』に変更出来る?」


「お安い御用だ」


 エイジンは床に寝そべってノートパソコンを起動し、その横に並んで寝そべるグレタの見ている前で、しばらくカタカタと作業をした後で、


「よし、これでいい。ゲームを始めるぞ」


 ディスプレイに簡素なゲーム画面が現れ、その中央にグレタが選んだ悪役令嬢の立ち絵が表示される。


「面白いわね。ゲームと言うには素気ない作りだけれど」


「後はエンターキーを押すごとに、下のメッセージウィンドウに台詞や地の文が表示されて物語が進行する。まあ、やってみな」


 エイジンの指示に従い、グレタはキーを押して行った。以下は、メッセージウィンドウに表示された内容と立ち絵キャラの表情である。


エイジン 『おはよう、グレタ。よく眠れたかな?』


グレタ  『ワン!』(笑顔)


エイジン 『朝の散歩に行くぞ』


グレタ  『ワン! ハッ、ハッ、ハッ、ハッ……』(笑顔)


エイジン 『散歩の後は水だ。たっぷり飲め』


グレタ  『ピチャ、ピチャ、ピチャ、ピチャ……』(笑顔)


エイジン 『しばらく休憩したら、朝ごはんだ』


グレタ  『ワン!』(笑顔)


エイジン 『お座り』


グレタ  『スタッ』(真剣な顔)


エイジン 『お手』


グレタ  『シュパッ』(真剣な顔)


エイジン 『よし、よく出来ました。さ、たっぷりお食べ』


グレタ  『ワン! ハグ、ハグ、ハグ、ハグ……』(笑顔)


「何よこれ!」


 流石に途中でキレるグレタ。


「元は少年と犬のハートフルな日常を描いたショートストーリーだったんだが、犬を女の子の絵に差し替えるとこうなる。ちなみに変更前の犬の名前は『ポチ』だった」


「絵をもう一回差し替えて! 今度は男の子の絵で! 二人の名前も入れ替えて!」


「自分でやれ。このシナリオファイルを書き換えるんだ」


 こうして今日もエイジン先生の修行詐欺が始まった。

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