▼321▲ エサをねだる巨大な鯉のぼり
その日の夕方、プラモ製作を満喫して小屋に戻って来たエイジンを、
「おかえりなさいませ、エイジン先生」
巨大な赤い鯉のぼりの着ぐるみにすっぽり身を包み、大きく開いた丸い鯉の口から真面目くさった顔を覗かせたイングリッドが、恭しく出迎えた。
「ただいま。今日はまた一段と色物芸人って感じだな」
「エイジン先生が製作されていたMiG-15にちなんでみました」
「確かに形は似てる。本来は男の子の成長を願って飾る日本の縁起物なんだけどな」
「ちなみに着ぐるみの下は何も着けていません」
「風通しが良さそうだな。鯉のぼりだけに」
「この大きく開いた口の隙間からチラチラと見えてしまう、一糸まとわぬ裸をどうぞご堪能ください」
「あんたの芸人魂には敬意を表するが、いつまでもアホな事やってると風邪ひくぞ。さっさと着替えて来い」
「着替える前に一言いいでしょうか、エイジン先生?」
「何だ?」
「釣った魚には、ちゃんとエサをあげてください」
「釣ってねえよ。それとその格好だと、むしろあんたがエサとして鯉のぼりに食われてる様に見えるんだが」
「もちろん例え話です。つまり、これからもグレタお嬢様と私をちゃんと可愛がってあげてくださいね、というお願いです」
「その格好で言われても、ギャグにしか聞こえん」
「一応、『恋』と『鯉』もかけてありますので」
「ひねり過ぎて訳が分からなくなってるぞ。出落ちのギャグはシンプルなのが一番だ」
「ギャグと見せかけたその裏に込められている真摯な想いを感じて頂ければという」
「いいから、さっさと着替えろ。俺も着替えて来る」
面倒くさい事を言い始めた鯉のぼりメイドを放置して自分の部屋へ向かうエイジン先生。
潔く諦めたイングリッドも自分の部屋に戻っていつものメイド服に着替え、しばらくしてからキッチンにエイジンを呼び、
「そんな訳で、今日のスイーツはたい焼きです」
「魚が違うぞ、おい」
焼きたてのたい焼きを白い紙で包んでテーブルに出し、予想通りのツッコミを入れられた。
「うぐぅ」
「やかましい」




