▼318▲ チェリーパイに関する大切な質問
アーノルドの見舞いを終えたエイジン先生は、病院を出て駐車場に戻ると、車の中で待っていたグレタとイングリッドに病室でのやりとりを簡単に報告し、
「そんな訳で、例の山小屋は自由に使っていいってさ。ありがたく休憩させてもらおうぜ」
マリリンから貸してもらった鍵を二人に見せた。
「マリリンが来ていたのなら、私も挨拶に行った方がよかったかしら?」
後部座席でエイジンの隣に座るグレタが本妻気取りを発動させようとするも、
「話がややこしくなるからやめとけ。病室でいざこざを起せばアーノルドの迷惑になる」
そう言って、高確率で起き得る修羅場を回避するエイジン先生。
「チェリーパイの評判はいかがでしたか?」
メイドとしてずっと気になっていた事を尋ねる運転席のイングリッド。
「えらく好評だった。マリリン嬢からは、『とても美味しかったわ。ありがとう』、って伝えてくれと頼まれたし、アーノルドは、『万時につけて細かい気配りの出来る方』が作ったんだろう、って褒めてたぞ」
「そうですか。腕によりをかけた甲斐がありました。それとチェリーパイに関連して、エイジン先生にもお尋ねしたい事があるのですが」
「『アーノルドの作ったアップルパイとどっちが美味しかったか』、ってか? 甲乙つけがたいが、強いて言えばチェリーパイの方だな。今朝、作りたてを食わせてもらった、っていう有利な条件もあるが」
「お褒めに与り光栄です。が、そうではなく、もっとエイジン先生自身の事について、この際はっきりさせておきたいのです」
「何だ?」
「つまりエイジン先生がチェリーなのかチェリーでないのかを」
「とっとと車を出せ。早く行かないと日が暮れるぞ」
ダメイドの質問を無視して、運転席の背をバンバン叩くエイジン先生。
「わ、私もそれ、知りたいんだけど!」
「名家のお嬢様がそんな事聞くな!」
横から真剣な表情で問い質すグレタを窘めるエイジン先生。
「未来の伴侶となる二人の女性がこうして真面目に尋ねているのです。もしチェリーでないのならば、出来るだけ具体的にお答えください。エイジン先生の初めてはいつ、どんなお店で、どんな嬢と、どんなプレイだったのかを」
「風俗限定か。あんたの頭の中で一体どんな人生を送ってるんだよ俺は」
ダメイドの追い打ちセクハラに、エイジン先生は大きなため息をついて、
「山へ行く前に文房具店に寄ってくれ。ボール紙とガムテープが欲しい」
「それで何をするつもり、エイジン?」
グレタの問いに、
「あんたらへのツッコミ用のハリセンを作る。うっかりして持って来るのを忘れてた」
うんざりした表情で答えるエイジンだった。




