▼315▲ 織田信長の草履と脱ぎたての下着の共通点
翌日、エイジン先生はガル家から車で約三時間の場所にあるカービー第三病院を訪れた。
整形外科病棟内の病室の入り口に表示されている番号と、その下の「アーノルド・フランケンシュタイナー」というネームプレートを確認してから、ドアをノックし、
「どうぞ」
というドスの利いたしゃがれ声の返事がした後で、部屋の中に入り、
「よお、見舞いに来たぜ。どうよ、ケガの具合は?」
他人事の様にしれっとアーノルドに容態を尋ねるエイジン。
「全治一ヶ月だそうだ。靭帯を一部損傷したものの、完全断裂までには至っていない。だが大事を取って、ここでひとまず三日間の入院を言い渡されている」
でかい図体に水色の入院服を着たアーノルドはベッドの端に腰掛けており、左足首を覆う白いギプスがケガの生々しさを語っていたものの、その強面な無表情と淡々とした口調から、ケガをさせたエイジンに対する恨みは全く感じられなかった。
「自分でやっといて何だが、こういうケガは最初が肝心だからな。フラフラ歩かずに、くっつくまでしっかり養生してくれ」
そう言いながらエイジンは、傍らに立てかけてあったパイプ椅子を二脚開き、その一つに腰掛け、もう一つに持って来た紙袋を置く。
「言われるまでもない。マリリン様からも、『今はケガを治す事だけに専念せよ』と、命令されている」
「マリリン様の忠実なしもべたるあんたの事だ、文字通り全力でケガを治す事だけに専念するだろうから、一ヶ月を待たずに完治するかもな」
「そう願いたいものだ」
「早速だが、あんたから借りてた携帯を返すぜ。で、俺が没収された二つの携帯の方は――」
「ちゃんと持って来たわよ、エイジンさん」
エイジンが振り返ると、タートルネックの黒いセーターに白いパンツ姿のマリリンが、いつの間にかドアの前に立っていた。シンプルで飾り気のない服装が逆にその美貌とボンキュッボンなスタイルを引き立たせており、と言うか結局の所、美人は何を着ても似合うらしい。
「本当に気配を殺すのが上手だな、あんたは」
エイジンはパイプ椅子から立ち上がると、持って来た紙袋から濃緑色の耐衝撃ケースが付いた携帯を取り出して、アーノルドが腰かけているベッドの枕元に置き、
「さて、こいつはアーノルドに返したからな。俺の携帯も返してくれ」
とマリリンの方に向き直る。
「いいわ。ちょっと待ってね」
マリリンは自分のセーターの前を少しまくり上げて、下から胸の辺りに手を突っ込み、
「はい、どうぞ」
昨日没収した二つの携帯を取り出し、エイジンに差し出した。
「秀吉の草履取りかよ!」
まだマリリンの体温で生温かい携帯を受け取りつつ、呆れ顔でツッコミを入れるエイジン先生。
「うふふ、ちょっとしたサービスよ、ノブナガさん」
いたずらっぽく笑うマリリン。
「寒い日の草履ならともかく、携帯をあっためても意味ないだろうに。でも本当に日本の事よく知ってるな、あんたは」
「ゲームでは有名人じゃない、この二人」
「それはそれとして、よくセーターの中から落ちなかったな、この携帯」
「二つとも胸の上に乗せてたから、大丈夫よ」
ボンキュッボンなマリリンならではの荒技である。




