▼311▲ 猫の鈴と犬の宝物
「何はともあれ、エイジンさんのおかげで、あのマリリン・ローブローという、のらりくらりと逃げ回る厄介な猫の首に鈴をつける事が出来ました。『毒を以て毒を制す』とは正にこの事です」
「褒めてると見せかけて全然褒めてねえな。別にいいけどさ」
ジュディ特別捜査官の毒を含む発言を、さらりと受け流すエイジン先生。
「一応感謝はしています。一応は」
「なぜ二回言う」
「今回の件は正式にエイジンさんへ依頼した訳ではありませんが、結果的に魔法捜査局の仕事に協力してもらう形となりましたので、追加で百万円差し上げましょうか?」
「いや、こっちの計画にも協力してもらった訳だし、おとといもらった百万円の範囲内の仕事って事でいいぜ。人間、欲張り過ぎるとロクな事はない」
「で、本音は?」
「ここでうっかり百万円もらったが最後、『では、その三千万円は証拠物件として魔法捜査局で預かります』、って没収される可能性がある」
「たった今、『欲張り過ぎるとロクな事はない』、と言っておいてそれですか」
「細かい事はいいんだよ。とにかく、この三千万円は俺のものだからな!」
そう言って金の詰まった紙袋を、「ワシの金じゃあ! 誰にも渡さんぞお!」、と言わんばかりに抱きしめる金の亡者、もといエイジン先生。
もっとも魔法界の大物ジュディにとって三千万円など大した金額でもなく、おそらくその姿も、飼い犬が大事な宝物にしている安っぽいオモチャを口に咥えたまま「ウー!」と唸っている位にしか思われていない。
「では、これからエイジンさんをガル家に送ります」
ジュディは自分の携帯を取り出して、ガル家に連絡を取り、
「イングリッドさんですか? こちらジュディ・ガードです。エイジンさんの用事が終わったので、そちらにお返しします。ええ、もう玄関に来ています。ドアを開けて頂けますか?」
次の瞬間にはもう、ガル家の敷地内にある小屋の前へ無詠唱魔法による瞬間移動を終えていた。
「毎度の事だが、いきなりワープするのはやめてくれ。せめて、『せーの』とか『さんはい』とか、一声掛けてくれるとありがたいんだが」
急に瞬間移動させられて面食らうエイジンがジュディに抗議している所へ、玄関のドアが開き、
「ジュディ様、エイジン先生を無事連行して頂きありがとうございます。すぐにお茶をご用意致しますので、どうぞ中へお入りください」
イングリッドが二人を出迎える。
「お言葉に甘えさせて頂きます、イングリッドさん。とりあえず、エイジンさんの今日の行動について逐一報告する必要もありますから」
「秘密警察のスパイか、あんたらは」
エイジンのツッコミを無視して、ジュディとイングリッドはさっさとグレタの待つリビングへ向かった。




