▼309▲ 金に汚い聖人様
こうしてエイジン先生の提案に基づき、「ジュディ捜査官がマリリンの罪を見逃す代わりに、今後マリリンはジュディ捜査官から要請があればその特殊能力を活かす形で犯罪捜査に協力する」、という裏取引が成立した。
「この裏取引は公にしない方がメリットがあるから、契約書を書く必要はないな。マリリン嬢が協力を拒んだら、『じゃあ、例の山小屋の一件で逮捕する』、と脅せばいいだけの話だし。もしマリリン嬢自身に何らかの不祥事が発覚した場合でも、『あの人は魔法捜査局とは一切関係ありません』と、シラを切る事も出来る」
何げにひどい事を言っているエイジン先生。
「ずいぶんな扱いね。魔法捜査局にとって、私は『都合のいい女』でしかないのかしら?」
マリリンが笑ってそれに抗議し、
「『都合のいい女』とは、言い得て妙ですね。確かにこのエイジンさんは、関係を持つ女性をことごとく『都合のいい女』にする習性があるので、注意してください」
真顔でそれに答えると見せかけて、矛先をエイジンへ向けるジュディ捜査官。まだ先日の一件を根に持っているらしい。
「どんなスケコマシだよ。俺はどっちかと言うと、誰とは言わんが次から次へと現れる『自分の都合で人を振り回そうとする女』の被害者だ」
「うふふ、でも、『男を振り回す女』って魅力的じゃない?」
男を振り回す女の代表格マリリンが、しれっと自分を正当化する。
「確かにそういう女に魅力を感じる男もいる。アーノルドなんかその最たる例だ。あんたに振り回される事に喜びと生きがいを感じてるんだからな。俺は理解は出来ても共感は出来んが」
「エイジンさんは、女性を洗脳して自分の思い通りに操るタイプですからね」
エイジン先生をサイコパス扱いするジュディ。やっぱり色々と根に持っているらしい。
「そんな簡単に洗脳して操れるなら苦労はしねえよ。犬に『お手』を教えるのとは訳が違うぞ。もっとも」
エイジンはマリリンに向き直り、
「あんたなら、『魅了の魔眼』抜きでも、男を洗脳して自分の思い通りに操る位、簡単なんだろうな」
と言うと、
「全くこっちの思い通りにならない男の人に言われても、ね」
マリリンはそう言って、不敵な笑みを浮かべ、
「でも、思い通りにならないあなたとのゲームは楽しかったわ、エイジンさん。またいつかやりましょう」
エイジンをゲーマー的な意味で誘惑した。
「あんたも懲りないやっちゃな。しかも魔法捜査局の人間が見てる前で堂々と誘ってるし」
呆れるエイジン。
「マリリンさん、この悪質な詐欺師相手に騙し合いを挑むのは、素人がFXに全財産を突っ込む位危険です。もうやめた方が身の為ですよ」
マリリンがそれを聞き流すであろう事は承知の上で、一応警告するジュディ捜査官。
「誰が悪質な詐欺師だよ。犯罪被害に遭いながらもその犯人の事を思いやれる、言わば聖人様だぜ?」
「では、聖人様。その大事そうに抱えている三千万円も、今すぐマリリンさんに返還して差し上げるというのはどうでしょう?」
ジュディが無表情でそう問うと、
「これは正当な報酬として頂いた分だから、返す必要はない」
金に汚い聖人様は、しっかと三千万円の入った紙袋を抱きしめた。
それを見て、ケラケラと笑うマリリン。




