▼302▲ ズバリ! 好きな軍用機で分かる性格診断
うつぶせに倒れた所を、エイジン先生にアンクルホールドをがっちりと極められ、完全に詰んだ状態のアーノルドが、
「私は……マリリン様の……命令を最後まで……守らねばならない!」
それでも苦痛に耐えつつ、ご主人様であるマリリンの為に最後まで戦う、という悲壮な決意を表明する。
「マリリン様なら心配ねえよ。いっぱしのゲーマーなら、勝敗が確定した時点で投了するのは、ごく当然の行為だ。プロのチェスプレイヤーは、キングを取られる何手も前に負けを認めるぜ?」
そんなアーノルドの左足首を容赦なく痛めつけながら、「早く負けを認めて、このゲームから降りろ」、という説得を続けるエイジン先生。ある意味、説得というより拷問と言った方が早いかもしれないが。
「痛みに……負けて……自分が……助かりたいが為……任務を放棄するなど……もっての他!」
「いや、だから。あんたがこのまま足首をやられたら、どうしたって、『エイジンを捕まえて来い』って任務は遂行出来なくなるだろ? つまり、ここでギブアップしてリタイアしても、ギブアップせずに俺を追いかけられなくなっても、結果は同じなんだよ。それが分からない程、マリリン様はバカじゃない。ここまで頑張ったあんたの事は、『よくやった』と褒めてくれるさ」
「私の……信念の……問題……だ!」
「あんたがどんなに精神主義を唱えようと、当のマリリン様は徹底的な合理主義者だと思うぞ。その証拠に俺が最初にマリリン様に会った時、『一番好きな軍用機はB-29』って言ってたぜ」
「何の……話だ……」
「B-29が好きな奴に精神主義者はいない、て話だ。設計思想から運用方法に至るまで、B-29って爆撃機は合理主義の塊と言っていいからな。そこに精神主義の入る隙はこれっぽっちもない」
「……それでも……私は……マリリン様の命令に……従うのみ」
「なあ、今俺達がやっているのは戦争じゃなくて、ただのゲームだ。ただのゲームで足首を破壊するまでやる必要はない。ましてやマリリン様は合理主義者だから、仮に実際の戦争でだって、『降服は許さない。最後まで戦え』、なんて無茶な命令は出さねえよ。スターリングラードじゃあるまいし」
「……マリリン様の命令に……従うのみ」
「壊れたレコードかあんたは」
説得の余地なしと見たエイジンは、心底うんざりした表情になり、
「マリリン様の命令に従う事が、あんたにとって人生の全てなんだな。じゃあ、仕方ない」
右手でつかんでいたアーノルドの左足のつま先を、グキ、とひねり、その足首を破壊した。
苦悶の表情を浮かべつつも、超人的な精神力で激痛をこらえて声を押し殺すアーノルド。
エイジン先生はアーノルドの左足を解放して、そっと地面に置き、
「まったく、恋愛ってのは人を狂わせる」
この融通の利かない一途なマッチョ男に対し、敬意と憐みの入り混じった口調でつぶやいた。




