▼03▲ 殺伐とした三角関係
「召喚しておいて何ですが、まずお名前を教えて頂けないでしょうか」
魔法使いアランが本当に今更な質問をするが、金に目がくらんでいる男は、特に気を悪くした風もなく、
「船越英人だけど」
と上機嫌で答える。
「では、以後エイジン先生とお呼びさせてください。すみません、しばしお待ちを」
アランは懐から携帯を取り出し何やら話し始めた。
黒いローブを着た自称魔法使いが携帯を耳に当てている姿は、色々な意味で違和感ありまくりだったが、エイジン先生は金に目がくらんでいるのであえて何も突っ込まない。
しばらくすると庭園の向こうから、黒地に青いラインの入ったジャージを着た若い短髪の女が、畳まれたパイプ椅子を三脚まとめて脇に抱え、もう一方の手で大きなキャスター付きホワイトボードを転がしながら、アランとエイジンがいる所までやって来た。
「こちらは、アンヌ・パウンディング。グレタお嬢様の格闘術のインストラクターです。時間もないので挨拶は後にして、とりあえず、これまでの経緯を簡単にお話しします」
ホワイトボードの脇にアランとアンヌ、正面にエイジンが、それぞれパイプ椅子に座り、まず、グレタとジェームズとリリアンの三角関係についての説明が始まった。以下、その概略。
名家であるガル家とストラグル家は、お互いの娘と息子を政略結婚させる事を決めており、当事者のグレタ・ガルとジェームズ・ストラグルも、小さい頃からそれを承知していた。
ところがある日、ジェームズはストラグル家のパーティーに現れた名家ラッシュ家の娘リリアン・ラッシュと、一目で恋に落ちてしまう。
ジェームズはリリアンと結婚する為に、グレタに婚約破棄を申し出たが、グレタはこれを許さない。
ジェームズをフルボッコにして港の倉庫に逆さ吊りにした後、グレタはそこへリリアンを呼び出し、男を賭けて決闘を申し込んだ。
グレタは死闘の末リリアンに勝利し、その勢いで、
「私とジェームズが結婚するまでに、私に一度でも勝てたら、婚約を破棄してジェームズを自由にしてあげますわ」
と言い放ち、オーッホッホッホ、と高笑い。
無念の悔し涙を流したリリアンは、その後異世界から古武術の師匠を召喚し、猛修行に励む。
一ヶ月後、リリアンは単身ガル家に乗り込み、古武術の奥義を用いてグレタをノックアウト。
リリアンはジェームズを取り戻し、愛し合う二人はハッピーエンドへまっしぐらの途中。
「と、まあ、ここまでが今に至る状況です」
アランが一旦説明を終える。
「何か熱血スポ根と少女漫画を、何も考えずに一緒くたに混ぜちゃった感じだな。作者も半ばヤケになっているというか」
エイジン先生も、これには突っ込まざるを得なかった。