▼293▲ ボディーチェックを利用した逆痴漢
エイジン先生が残りの人生を賭けた準デスゲームに強制参加させられる事が決定してから、少しして、
「到着しました、マリリン様」
ずっと無言で運転していたアーノルドが車を停め、淡々とそう告げた。
「ありがと、アーノルド。じゃあ、ここで降りてくださる、エイジンさん?」
とても誘拐犯かつ脅迫犯とは思えない甘くけだるい声で、エイジンに促すマリリン。
「ここからは徒歩か。もう車で行けそうもないしな」
山の中、舗装されていない場所で車を降りたエイジン達の前に、登山道らしき細い道が現れた。脇に立っている看板には、「これよりローブロー家私有地につき立ち入り禁止」、と注意書きが書かれている。
「この道を行くと、別荘の山小屋に着くの。私は魔法で瞬間移動するけれど、アーノルドは徒歩で約一時間かけてそこへ向かうわ。エイジンさんはどちらの方がいいかしら?」
マリリンがにっこりと笑いながら、キツさに差がある移動手段の二択を迫り、
「アーノルドと一緒に歩く。山歩きは好きな方でね」
意外にも、キツい方を選ぶエイジン先生。
「うふふ、カンがいいわね。じゃあ、アーノルドとゆっくり来てちょうだい。でもその前に」
マリリンは笑顔のままエイジンの前に進み出て、
「所持品を調べさせてね。携帯みたいに、外部と連絡を取れるアイテムはゲームの邪魔なの。悪いけど終わるまで預からせてもらうわ」
許可を待たずにペタペタとエイジンの肩を触り始めた。
「携帯はダメなのか。じゃあ、ほら、預けるから。もう、ボディーチェックはいいだろ?」
一歩下がってお触り攻勢から逃れ、迷彩服の胸ポケットから携帯を取り出し、マリリンに手渡すエイジン。
「ありがと。でも、念の為に全身を調べるわ」
一歩前に出てボディーチェックを続行し、上から下へと念入りにエイジンの体を触りまくり、
「ここもね」
股間まで容赦なくまさぐるマリリン。ゆっくりと。確かめる様に。いやらしい手つきで。
「キャー、痴漢!」
おどけて悲鳴を上げるエイジン。
「ごめんなさい。ここにはあるべきモノしかなかったわ」
「名家のお嬢様が、そんなはしたない事やっちゃダメだろ」
「じゃあ、アーノルドに調べてもらう? 私より手に力が入っちゃうかもしれないけど」
「遠慮しとく。ボディーチェックで男を廃業したくない」
「賢明な判断ね……あら、これはなぁに?」
エイジンの迷彩服のズボンの左足首の上にあるポケットから、もう一個別の携帯を取り出し、いたずらっぽく笑って見せるマリリン。
「あ、こないだなくしたと思ってた携帯がこんな所に! やー、気付かなかったなー」
わざとらしい小芝居を始めるエイジン先生。
「やっぱり面白い人ね、エイジンさん。『携帯は一人一つ』っていう先入観を利用しようとしたのね。いいトリックだわ」
「男の股間まで容赦なくまさぐって調べようとするあんたには負けたよ」
「このゲームは厳密な条件下で真剣に遊びたいのよ。じゃあ、山小屋で待ってるわね。ププッピドゥ♪」
最後に色っぽく短い呪文を詠唱すると、どこからともなく突風が吹き、マリリンの着ている黒ローブの裾がまくれ上がって、黒いハイヒールを履いているだけのナマ足が太ももまで露わになった。股間の辺りを手で押さえ、それ以上ローブがまくれ上がるのを阻止しようとするポーズのまま、マリリンの姿が消える。
「ワーオ、って効果音を入れたくなるな」
アーノルドにしょうもない同意を求めるエイジン先生。
アーノルドは、
「ついて来い」
とだけ言って、細い道を歩き出した。




