▼292▲ デスゲーム漫画に出てくる一見可愛いマスコットキャラの言動
エイジン先生を拉致した車は、その後ずっと人気のない緑豊かな山道を猛スピードでひた走り、
「うふふ、車から飛び降りて逃げてみる?」
隣に座るマリリンがからかう様に促すも、
「このスピードで飛び降りたら流石に大ケガするわ。仮に上手くいったとして、こんな不案内な山奥でどう逃げろと。ラブホに連れ込むのを拒否された腹いせに山の中に置き去りにされる女か俺は」
当然この状況から逃げられる訳もなく、エイジンに出来るのはせいぜいいつものへらず口を叩く事位である。
「ワイルドでタフな男の人って魅力的だと思うの」
「このマッチョな運転手の人みたいにか。俺はこの人の前でワイルドでタフを名乗れる程図々しくはない」
運転席で黙々と任務を遂行するアーノルドの後頭部を指差すエイジン。アーノルドは何も言わない。
「賢い男の人は、もっと魅力的よ」
「じゃあ、俺は失格だな。賢い男だったら、こんな風に易々と誘拐されるとかありえねえし」
「うふふ、ごめんなさい。でも、誘拐した訳じゃなくてよ。ちゃんと言われた通り、ガル家に事前に電話してお誘いしたじゃない」
「別人を装ってな。世間一般ではそれを詐欺と言うんだが」
「もちろん、タダで遊んで、とは言わないわ。それなりの報酬は出すわよ。日本の紙幣で三千万円でどう?」
「さて、どんなゲームをして遊びましょうか、お嬢様?」
態度を急変させ、愛想笑いをしながら揉み手を始めるエイジンに、マリリンはおかしそうに笑って、
「やっぱり、面白い人ね。でも、ただ報酬を渡したんじゃつまらないわ。私とゲームをして完璧に勝ったら、最高額の三千万円を手に出来るの」
「ギャンブル形式か。じゃあ、逆に俺が完膚なきまでに負けたら、タダ働きか?」
「それと、あなたの残りの人生も頂くわ。『魅了の魔眼』で、ゲームに負けたエイジンさんは一生私の奴隷にされるの。どう、ワイルドでタフでしょう?」
無邪気な笑顔で何気に恐ろしい事を言ってのけるマリリンと、
「やっぱ、そのゲームはナシ。報酬は安くて構わないので、もっとワイルドでもタフでもないゲームがいいです」
少し愛想笑いを引きつらせるエイジン先生。
「そう? エイジンさんがそこまで言うのなら」
「変更してくれるか?」
「私の不戦勝とみなして、今ここで『魅了の魔眼』を使うわね」
「デスゲーム漫画に出てくる一見可愛いマスコットキャラ並にタチが悪いな、あんた」
マリリンにツッコミを入れても、エイジンにゲームに対する拒否権は与えられなかった。
アーノルドは何も言わない。




