▼290▲ 妹と遊ぶ約束を反故にしてサバゲー会場に出かけようとする困った兄
翌早朝、エイジン先生が例によってその前の晩のエロ体験談を無理矢理聞かせようとする前に、アラン君は先手を打ってアンヌと共にガル家の所有する車を一台借りて旅行に出発した。
「随分と早い出発だったわね」
「貴重な休暇を一分一秒たりとも無駄にしたくなかったんだろうよ」
日頃の迷惑行為を反省する様子もなく、グレタにしれっと言うエイジン。
二人は昨日に引き続き、朝から稽古場で一緒にプラモ製作を再開し、昼過ぎになって、ついに隼とMiG-15が完成する。
「後は色々乾くまでそっとしておくんだ。どうだ、こうして説明書通りに作るだけでも中々の物が出来上がるだろ?」
稽古場の隅の棚の上に並べた四十八分の一の隼とMiG-15を眺めながら、エイジンが満足げに問う。
「そうね。それに時間と手間をかけた分だけ達成感があるわ」
エイジンに寄り添いながらグレタが答えたちょうどその時、グレタの携帯の着信音が鳴った。
「あら、イングリッドから電話だわ。何かしら……私よ、イングリッド……分かったわ、繋いでちょうだい」
携帯をエイジンに渡して、
「ジュディの部下があなたに話があるそうよ、エイジン」
「例のマリリン嬢の件かな……はい、もしもし、こちらエイジン・フナコシ」
「イングリッドです」
「あ、まだ繋いでなかったのか」
「電話をエイジン先生にお取り次ぎする前に、一応確認したい事があるのですが」
「何だ?」
「エイジン先生は、ドリス・デンプシーという方をご存じですか? 電話を掛けてきた若い女性で、ジュディ様の直属の部下という話でしたが」
「ああ。この前俺がジュディ嬢の城から元の世界に強制送還された時に、その異世界転移魔法を担当した魔法使いだ」
「失礼しました。ではドリス様にお繋ぎします」
しばらくして、通話が切り替わり、
「もしもし、私、ジュディ・ガード特別捜査官の直属の部下のドリス・デンプシーと申しますが、エイジンさんでしょうか?」
すぐに、まだ少女と思しき声が尋ねた。
「エイジンだ。その節はお世話になったな」
「前置きは抜きにして、ジュディ捜査官からの伝言をお伝えします。『取り調べ中のマリリン・ローブローがつい先程、ガード家の城から脱走しました。彼女を捕獲する為、エイジンさんにも山狩りに協力して欲しいのです』、と以上です。いかがでしょう、今すぐ魔法捜査局本部まで来て頂けないでしょうか?」
「急な話だな。で、ジュディ嬢は今どこに?」
「携帯の電波の届かない山中で、城にいた他の部下達と共にマリリン容疑者を追っています。事態は一刻を争うので、とりあえずお返事だけお聞かせください。これから本部まで来て頂けますか?」
「行くよ。ジュディ様とは、また何かあったら百万円で手伝う約束があるんでな」
「では、最寄りの魔法捜査局支部から車で迎えをそちらに寄こします。支部からはヘリで本部まで直行です。山の中で行動出来る服装に着替えてお待ちください」
「分かった。詳しい事はそっちで聞かせてくれ」
そこで通話を終え、携帯をグレタに返し、
「マリリン嬢が城から脱走したらしい。そんな訳で、またジュディ様のお手伝いに行かなきゃならなくなった。残念だが、今日のプラモ製作はここまでだ」
「そう……残念だけど、ジュディを手伝ってあげて」
携帯を受け取って、少し意気消沈するグレタ。お兄ちゃんに遊んでもらえる約束を反故にされた妹の様に。
「山の中で行動出来る服装か、ふむ」
しょげた妹を放置して、しばし考えるエイジン先生。
「よし、あれで行くか。ちょっと着替えてくる」
稽古場を飛び出してから約十五分後、グレタの元に戻って来たエイジンは、
「場合によっては今日中に帰れないかもしれないし、城は携帯の電波が通じない所にあるから連絡出来なくなる恐れもあるが、何があってもパニックに陥らず、セルフコントロールに務めるんだぞ。いいな?」
お前これからどこのサバゲー会場へ行くつもりだ、と言いたくなる様な、濃緑色をベースにした迷彩服の上下に身を包んでいた。
「本当に仕事で行くんでしょうね、エイジン?」
自分を放っておいてどこかへ遊びに行くんじゃないか、と疑惑の眼差しを向ける妹状態のグレタ。




