▼285▲ 他の女の匂いと社交辞令と混浴文化
「エイジン先生の体中から、あの女の匂いがします!」
全裸のイングリッドは芝居がかった口調でそう言いながら、全裸のエイジン先生を風呂場の椅子に座らせ、その頭上から高水圧の温水シャワーを容赦なく浴びせ始めた。
「いつからヤンデレヒロインにジョブチェンジしたんだよ。第一、俺がマリリン嬢に指一本触れなかったのは、あの会見動画見ても明らかだろ」
目を開けるのも一苦労な滝行状態にされているエイジン先生が、顔面を滴り落ちる水流の中から反論する。
「単に気分の問題です」
そう答えて、全裸のイングリッドは全裸のグレタと共に全裸のエイジンを両脇から抱える様にして椅子から立たせると、そのまま湯船へと連行し、いつもの様に野生の猿よろしく左からイングリッド、エイジン、グレタの順で三人固まって湯に浸かった。
「とりあえずグレタお嬢様と私の匂いを付けておきましょう」
「所有者が誰かをハッキリさせておかないとね」
そう言って、エイジンの肩に自分の頬を擦りつけるイングリッドとグレタ。
「匂い付けする猫か、あんたら」
どこまで本気なのか分らない二匹を押し戻すエイジン。
「何度も言いますが、単に気分の問題です。マリリン嬢の最後の一言がちょっと気になる女心を察してください」
イングリッドはエイジンの肩に自分の肩をくっつけて来る。
「あの言葉は俺もちょっと気になった。もっとも俺のいた国じゃ、『また機会があれば会いましょう』、っていう社交辞令もあってな。大方、『特に会う気ないです』、の意味になるんだが」
「こっちの世界にそんな回りくどい社交辞令はないわ。マリリンが『遊びましょ』って言ったのは、文字通りのお誘いの意味よ」
グレタも反対側からエイジンの肩に自分の肩をくっつけて来る。
「せっかくエイジン先生の理性を崩壊させるべく、私達が恥を忍んでこうして毎日裸で誘惑しているのに、よその女でその貯め込んだムラムラを発散されては意味がありません」
肩どころか自分の胸をエイジンの腕に押し当てて来るイングリッド。
「あんたらから恥の欠片も感じられないのは、俺の気のせいか?」
「失礼ね!」
手ですくったお湯をエイジンの顔に、ぴしゃっ、と浴びせるグレタ。
「まあ、俺のいた国にも混浴風呂はあるし、別の国だと普通に男女が全裸でサウナに入る文化もあるがな」
「それとこれとは話が別です、エイジン先生」
「エイジン以外の男に裸を見られるのは嫌よ!」
話が微妙にかみ合わない三人だった。




