▼283▲ 笑いのツボの前に脆くも崩れ去る女の友情
『この部屋を監視している、魔法捜査局特別捜査官ジュディ・ガード様の恋愛の顛末について』
『いいわね、それ!』
その後会見動画は、その場にいないジュディ様を容赦なく茶化しまくるネタの嵐へ突入し、さながら深夜ラジオでリスナーからのしょうもないハガキにツボるメインパーソナリティーと構成作家の如く、息をするのも苦しそうな位笑い転げながらかろうじて会話を交わすエイジンとマリリンのやりとりが延々と続いた。
「うーん。やはりこうして後から冷静に自分の芸を見返すと、まだまだ至らない点がたくさん見つかるな。『そこはもっとボケろ』とか、『そこは引っ張らずにあっさり流せ』とか、つい過去の自分に注意したくなる」
テレビ画面の中でのやたらハイテンションな行動とは裏腹に、いつになく真面目な口調で神妙に反省するエイジン。
「それ以前に、こんな風にジュディを笑い者にするのは可哀想よ!」
そう言って、エイジンの頭を軽くハリセンで叩くグレタ。
「構うもんか。そもそも、このマリリンの相手をする仕事を依頼したのはジュディ様だし」
「だとしても、乙女の一途な恋心をこんな風に笑うものじゃないわ」
「リアルタイムで監視してたジュディ様からは、このネタに関して何も文句は言って来なかったぜ。お笑いに寛容なのは大物の証さ」
「何か釈然としないわね」
こうしてエイジン先生に言いくるめられたグレタだが、次第にエイジンが面白おかしく演じるジュディネタにハマってしまったのか、こみ上げる笑いをこらえるのに必死になって来た。
確かに、親友が揶揄されているのを笑うのはよくない。
しかし残酷な事に、笑ってはいけない状況下であればある程、人は笑いたくなってしまうものである。
ついにこらえきれず、体をくの字に曲げて前傾姿勢となり、プルプル震えながら小刻みに笑い出すグレタ。
その隣で、してやったりとばかりに頷く、悪魔の様なエイジン先生。
「グレタ嬢もこうして笑った事だし、あんたも我慢しなくていいぜ」
反対側に座っているイングリッドを悪魔が唆すと、
「これしきのネタで笑う程、私の笑いの沸点は低くありませんので」
イングリッドは無表情でそっけなく言い返す。
しかし、エイジンはこの真面目ぶったメイドが、自分の太ももをギュッとつねって笑いをこらえている事を知っている。
「女の友情って奴は、実に美しいねえ」
そんな風に嘯くエイジン先生を、ハリセンで叩きたくても叩けない状況に陥っているポンコツ主従。




