▼282▲ 自分が出演した番組のビデオを見せられながらダメ出しされるお笑い芸人
「その様な訳で、たった今、エイジン先生が無事帰還しました。ジュディ様による『素直になあれ、萌え萌えキュン』の魔法は施されていないそうなので、残念ながら、いつも通りの『素直になれない硬派気取りのムッツリスケベ野郎』のままです」
居間で待っていたグレタに事情を説明しつつ、エイジンを容赦なくディスる事を忘れないイングリッド。
「そう、それは本当に残念だわ」
それを聞いて、楽しみにしていた遠足が雨で中止になった小学生の様にがっかりするグレタ。
「ここは俺が無事に帰って来た事を素直に喜ぶべき場面だと思うんだが。あんたら鬼か」
そんな二人の女のやりとりを見て、遺憾の意を表明するエイジン先生。
「エイジン先生をジュディ様にどの様に洗脳して頂くかは、またいずれ検討する事にして」
「するな」
「ジュディ様から、今回のエイジン先生とマリリン嬢との会見の記録映像を頂きましたので、早速検証したいと思います」
イングリッドはジュディからもらったUSBメモリを大型テレビに差し、リモコンを操作して動画鑑賞モードにした後、ソファーにエイジンとグレタを座らせてから居間を出て行き、
「お待たせしました。では検証を始めましょう」
大きなハリセンを二つ持って戻って来た。
「待て。そのハリセンは何だ」
あからさまに不審なアイテムについて、一応問い質しておくエイジン。
「動画の中でマリリン嬢に色目を使った事が確認されるごとに、エイジン先生にこのハリセンで喝を入れさせて頂きます」
真顔で答えるイングリッド。
「俺は座禅中の修行僧か。ハリセンは警策じゃねえぞ」
「これも妻の役目よ」
そう言って、イングリッドからハリセンを一つ受け取るグレタ。
「いや、そのりくつはおかしい」
そんなエイジン先生の抗議を無視してイングリッドがエイジンの左隣に座り、リモコンを操作するとすぐに会見動画が始まった。
まず、初っ端からエキセントリックに飛ばすエイジン先生に対し、動じる事なく平然と応対するマリリン嬢を見て、
「これは手強そうな女性ですね」
「わ、私も第二次世界大戦の軍用機を勉強するわ」
危機感を感じたのか、真剣な表情になるイングリッドとグレタ。
やがてエイジンがソファーに座って、マリリンとの会話を始めると、
「エイジン先生のへらず口を軽く受け流してます」
「なるほど、こういう風にあしらえばいいのね」
そこから何かを学ぼうとするポンコツ主従。
さらに場面が進んでマリリンが、
『グレタさんと結婚しちゃえば?』
と、エイジンに尋ねると、
「今、ものすごくいい事を言いましたね」
「結構いい人じゃない」
ポンコツ主従は、「聞いた? ねえ、今のセリフ聞いた?」、と言わんばかりに、左右からグイグイとエイジンに体を押し付けて来る。
さらに、エイジンの、
『女の財産目当てで結婚する最低男になりたくはないんで』
という言葉に対し、マリリンが、
『ちゃんと愛する努力もするなら、全然最低男じゃないわ。むしろ立派よ』
と、答えた時は、
「正に我が意を得たり、です」
「エイジン、まさか、そんな事気にしてたの?」
ポンコツ主従は嬉しそうに、左右からエイジンの肩をポンポン叩き始めた。
さらに、マリリンが、
『グレタさんはすごく綺麗じゃない。私から見ても惚れ惚れする位』
と言う段に及んでは、
「正直かつ素晴らしい審美眼の持ち主とお見受けしました」
「分かってるじゃない、この人」
興奮のあまり、エイジンを叩く手に力が入るポンコツ主従。
しかしその直後、エイジンの、
『容姿はともかく、惜しむらくは性格に問題があり過ぎる』
という台詞に、ポンコツ主従は急に真顔に戻り、テーブルに置いてあったハリセンをそれぞれ手に取って、
「何様のつもりですか、エイジン先生」
「性格に問題があり過ぎて悪かったわね!」
そのまま流れる様にエイジンの顔面にダブルハリセンを炸裂させる。
「事実を述べただけだ」
顔をさすりつつ反論するエイジン先生に、もう一度ダブルハリセンが炸裂。
「で、でも、容姿は合格ってことでいいのね?」
人の顔にハリセンを叩きこんでおいてから、急に顔を赤くしてデレるグレタだった。




