▼280▲ 釣った魚に餌をやらないタイプ
つい最近まで謎のベールに包まれていたジュディ特別捜査官の純情一途で乙女チックな内面を、完膚なきまでに暴露して茶化し抜き、小一時間ほどマリリンを涙が出る程笑わせ続けたエイジン先生が、ぽん、と手を叩き、
「さて、宴もたけなわと言った所ではございますが、この辺でお開きとしましょう。ってか、これ以上やらかすと、あんたの心証が悪くなるかもしれない」
キリのいい所で上手く理由を付け、この会見を終了する事を提言した。
「そうね、ジュディの取り調べに私怨が入ったら困るわね。もう手遅れかもしれないけど」
マリリンも十分満足した様子で、ハンカチで涙を拭きながらこれに同意し、
「あなたの事気に入ったわ、エイジンさん。事情聴取が終わって私がここを出たら、また遊んでくださらない?」
と、無邪気の中にも色気が漂う笑顔で誘う。
「俺もこう見えて結構忙しい身でね。グレタ嬢に事前にアポを取るか、今回の様にジュディ様経由で連絡するかして、まずこっちの都合を確認してくれ」
忙しい身どころか、これからしばらく武術修行と称し毎日プラモデルを作って遊び倒す気満々のエイジン先生は、もっともらしい事を言って煙に巻く。
「うふふ、面倒くさいのね。いっそ、さらっちゃおうかしら」
「そんな事したら、今度こそ逮捕されるぞ。そもそも電話一本で済む話だと思うんだが」
「冗談よ。今度会う時は、もっと楽しい事をして遊びましょ。ジュディをあまり怒らせないやり方でね」
こうして会見は無事終了し、エイジン先生はマリリンが拘留されている客室を出て、オードリーと共にジュディ捜査官が待つ書斎へと戻って来た。
「終わったぜ。あんな感じで良かったんだろ?」
さっきまで茶化しまくっていた当のジュディの前で、しれっと言ってのけるエイジン。
「はい、これで彼女も気が済んだでしょう。ご協力ありがとうございました」
さっきまで茶化されまくっていたにも拘わらず、机の上で両手を組み合わせたまま表情一つ変えず、面接官の様に淡々と答えるジュディ。
「あんたにしてみりゃ、この会見中、マリリンがうっかり俺に『魅了の魔眼』を使ってくれた方が、都合が好かったかもしれないがね」
「否定はしません。ですが、『魅了の魔眼』の犠牲者が出ないに越した事もありません。ところで、エイジンさん」
「何だ?」
「あなたから見て、あのマリリン・ローブローという魔法使いは、今回の事件で宝飾店の男性従業員に『魅了の魔眼』を使ったと思いますか?」
「俺の個人的な意見としてはクロだろうね。ありゃ、無差別に男を誘惑して楽しむタイプの女だ。誘惑したイケメン達を自分の周りに侍らせて悦に入るエリザベス嬢ともまた違う。誘惑に成功したら、もうその男に興味がなくなるっていう厄介なタイプだ」
本人がその場にいないのをいい事に、憶測で失礼な事を言いたい放題のエイジン先生。
「なるほど、釣った魚に餌をやらないタイプですか。まるでグレタさんとイングリッドさんを蔑ろにするエイジンさんの様ですね」
会見中に茶化されまくった仕返しか、毒のあるコメントを返すジュディ。無表情で。




