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古武術詐欺師に騙された悪役令嬢は今日も無意味な修行に励む  作者: 真宵 駆
▽本編△ 古武術詐欺師に騙された悪役令嬢は今日も無意味な修行に励む
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▼28▲ 無意味な修行を考える意味

 修行二日目、その日も午前中に掘った穴を午後に埋め戻すという無意味な作業を終えたグレタは、


「これしきの事で、私は絶対にくじけませんわ」


 と聞かれない内から、エイジン先生にドヤ顔で声高らかに宣言した。


「修行はまだ序の口だ。これが終わったら、さらに難しい修行を用意している。何度でも言うが、やめたくなったら、いつでもやめていい」


 真面目な顔をして、淡々と言い渡すエイジン先生。


「何度でも言ってあげます。古武術の奥義を習得するまで、私は絶対にくじけませんわ」


 そんな捨て台詞を吐いて不敵に笑い、泥まみれのグレタはアンヌと稽古場に戻って行った。


「あの分だと、グレタ嬢は本当にこの偽修行を一週間やり抜くな。早く次の修行を考えないとまずい」


 グレタの姿が見えなくなると、エイジンはアランと共に小テーブルと小椅子を片付けながら、そう言った。


「途中でやめたくなる位、辛い修行が必要ですね」


 アランが言う。


「でも、腕立て伏せ一万回とか、無茶振りにも程がある様なのだとダメだ。『じゃあ、お前はそれをやれるのか』とブーメランが返って来たら何も言えん」


「条件としては、エイジン先生でもやれば出来る位のレベルで、なおかつ、精神的に嫌になる様な作業、って所ですか」


「窓のない地下室で、九時から五時まで延々と新聞記事のスクラップブックを作らせてみようか」


「修行というよりただの追い出し部屋です、それ」


「まあ、これは冗談だ。あくまでも本人には、古武術の修行っぽく思わせないといけないからな。ってな訳で、例の倉庫を開けてくれ。偽修行に使えそうな物を探すから」


 二人は物置きに寄って小テーブルと小椅子をしまった後、異世界から取り寄せた品々が置いてある倉庫へと足を運んだ。


 あれこれ物色して、一見、修行とは何の関係もなさそうな物を、次々とカートのカゴに放り込んだエイジンは、


「ま、とりあえずこんなものか」


 と満足した様子である。


「一体、何に使うんですか?」


 不思議そうに尋ねるアラン。


「聞いたら笑うぞ。特にコレ」


 エイジンは選んだ品の一つを手に取り、アランに使い方を説明する。


「笑えません。穴掘り程キツくはありませんが、別の意味でお嬢様が気の毒になって来ました」


「ははは、『こんなバカバカしい事をするぐらいなら、古武術なんか習得出来なくてもいい』、と思わせるのが目的だ。それから、修行とは別に本も何冊か欲しい」


「どんな本です?」


「エロ本」


 エイジン先生のあっけらかんとした答えに、アランは赤面して、


「いや、まあ、エイジン先生も、男ですから、別に……」


 少し困惑げに言葉を濁す。


「俺がそういう用途で使うんじゃない。しつこいメイドに、ささやかな嫌がらせをしてやろうと思ってな」


「嫌がらせ?」


「寝室にばらまいておくんだ。どうせ俺がいない間に入って、掃除がてら色々チェックしてるだろうから」


「イングリッドが、それ位で怯むでしょうか」


「まあ、何でもない風を装うだろうけど、少し位は嫌がらせになるんじゃないか」


「逆に、その本を開いてエイジン先生の所に持って来て、『こういうシチュエーションがお好みなんですか? 今後の参考にしますので、是非詳しく教えて頂けないでしょうか』、とか言って迫って来たらどうします?」


 アランのシミュレーション結果について、エイジンはしばし無言で考えた後、


「うん、やっぱりやめておく」


 悲劇は未然に防がれた。

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