▼279▲ マイ・フェア・レディと人柱
「そんなにお金が欲しいの?」
エイジンのへらず口を余裕の笑みで受け流し、マリリンが問う。
「欲しい」
身も蓋もないエイジン先生。
「だったら、グレタさんと結婚しちゃえば? あっと言う間に大金持ちになれるわよ?」
「女の財産目当てで結婚する最低男になりたくはないんで」
「ちゃんと愛する努力もするなら、全然最低男じゃないわ。むしろ立派よ」
「努力しないと愛せない様な女と結婚しろと?」
「グレタさんはすごく綺麗じゃない。私から見ても惚れ惚れする位」
「容姿はともかく、惜しむらくは性格に問題があり過ぎる。それを教育してやるのが俺の仕事だ」
「あなたはさしずめ、『下町の花売り娘に綺麗な発音を教える言語学の教授』、って訳ね」
「こりゃまた古い映画を持ち出して来たな」
「最後はその教え子の花売り娘とハッピーエンドよ」
「映画ではな。原作だと違うんだぜ」
「映画だと最後まで教授は花売り娘に手は出さないけど、エイジンさんはどうなの? もう手を出しちゃった?」
「流石にその質問はアウトだ。話題を変えようぜ。そうだな、あんたが今回ここへ連れて来られる原因となった事件について。で、どうなんだ、正直な所。『魅了の魔眼』を使ったのか?」
「その質問はアウトよ、エイジンさん。でも、私は使ってないわ」
そう言って、思わせぶりな表情で微笑むマリリン。
「まあここで、『はい、使いました』、と認めたら、すぐ逮捕されるもんな。よろしい、もっと別の話題にしよう。今、社交界で最もホットな話題を一つ」
「なぁに?」
「この部屋を監視している、魔法捜査局特別捜査官ジュディ・ガード様の恋愛の顛末について」
「いいわね、それ!」
かくして意気投合した二人は、ジュディ特別捜査官をサカナにある事ない事言いたてて面白おかしく盛り上がったが、それを監視しているジュディ当人からのクレームは最後まで来なかった。
監視モニターの向こう側で捜査官は、「ぐぬぬ」な表情になっていたかもしれないが。




