▼273▲ 魅了の魔眼と得られたサポート
「痴女とは違いますね。男性を誘惑する術に長けているのです」
淡々としたジュディ特別捜査官の返答を聞いて、エイジンの足を踏みつけているグレタとイングリッドの表情に少し緊張が走る。
「で、鉄の自制心を持つ俺なら、その誘惑にも引っ掛からないと踏んだ訳か」
臆面も無くしれっと言ってのけるエイジン先生。
「いえ、たとえプロの結婚詐欺師であるエイジンさんといえども、彼女が本気で誘惑しようとすれば抵抗は出来ません。彼女は『魅了の魔眼』を持つ魔法使いですから」
「何、その中二チックな響き」
「文字通り、異性を魅了して虜にする眼を持っているのです。強力な精神操作系の魔法の一種です」
「正当な理由もなく精神操作系の魔法を使うのは、禁じられてるんじゃなかったのか?」
「だから、私の担当案件になったのです。彼女の元々の罪状は宝飾店での窃盗ですが、その際、男性従業員に魔眼を使った疑いがあるので」
「窃盗?」
「ある有名宝飾店に客として入った彼女は、白昼堂々、店にあった高価な品物を代金を支払わずに外に持ち出しました。もちろん、これは純然たる窃盗です。すぐに店の外で女性警備員に捕まりましたが、『盗んだんじゃないわ。お店の人がプレゼントしてくれたの』と抗弁し、当の男性従業員は『まったく覚えてません』という具合で、彼女とのやりとりはきれいに記憶から消えていました」
「催眠術みたいなもんだな」
「はい。もっとも彼女も名家の令嬢で、その程度の宝飾品は好きなだけ買える財力は持っています。店側は、『こちらにも落ち度があった事ですし、代金を支払って頂くか品物を返して頂ければ、まったく問題ありません』と主張し、彼女の方も、『気に入ったので喜んで買わせて頂くわ。殿方からのプレゼントじゃなくなったのが、ちょっと残念だけど』という具合で、事実上示談は成立しているのですが」
「魔法捜査局としては、『精神操作系の魔法を使った罪』を見逃す事は出来ない訳だな」
「はい。そこで現在、任意同行の形で事情聴取を行っているのですが、飽きたのか、『男の人とお話させてくれなきゃ、協力してあげない』、と駄々をこねる始末で」
「で、何で俺が呼ばれるんだ? 城にも男性職員は一杯いるだろう」
「彼女は若い金髪グラマー美人で、魔眼を使わなくても男性を誘惑する位は簡単にやってのけるのです。危険なので、城の男性職員は全員彼女に近づけない様にしました」
「なるほどね。身内が誘惑されるのはマズいが、俺なら誘惑されても構わないと」
二人のやりとりを聞きながら、ますます不安そうな表情になるグレタとイングリッド。その気配を察知したジュディは、
「安心してください。グレタさんとイングリッドさんの信頼を裏切る様な真似はしません。細心の注意を払いますし、もし仮に誘惑されてしまったとしても、私が責任を持って」
「元に戻してくれるのか」
「いえ、それは出来ないので、特別措置としてさらに精神操作系の魔法を施し、エイジンさんの心を上書きする形になります。元には戻せませんが、元と同じ状態に書き換えるのです」
「何か話がややこしいな」
「大丈夫です。ちゃんと、『グレタさんとイングリッドさんを平等に心から愛する良き夫』の状態に心を上書きしてから、こちらに戻しますから」
「待て、それは元の状態じゃねえぞ」
抗議するエイジン。
「話は分かったわ、ジュディ。早速エイジンをその魔法使いに会わせてあげて」
「思う存分魔眼に魅了されて来てください、エイジン先生。ジュディ様に治してもらってこちらにお帰りになった際は、すぐに床入りのご用意をいたしますので」
それとは対照的に目を輝かせ、ノリノリのグレタとイングリッド。




