▼27▲ ギャグとシリアスの並行世界
「世界の武術を制して人類最強を確信した後、レンタローはさらなる強敵を求めて野生動物に挑戦しました。北海道のヒグマ、カナダのグリズリー、グリーンランドのホッキョクグマ、インドネシアのコモドオオトカゲ、ネパールのベンガルトラ、アフリカのインド象などと素手で戦って全勝し、古武術の実戦的な強さを証明したのです」
「アフリカにインド象はいねえよ、ってツッコんだら負けなんだろうな。終いにゃコイツは、雪男やネッシーとも戦い始めるぞ。主に脳内で」
アンヌが真顔で次から次へと読み上げて行く古武術マスターレンタローの凄まじい経歴にツッコみ疲れたのか、段々投げやりな態度になって来たエイジン先生。
「その他、武者修行の旅の途中で、次々と世界の政財界の大物達を弟子にして、異世界を裏から支配しているとの事です」
「それだけアホな嘘を並べ立てられるレンタローの神経の図太さはある意味賞賛に値するが、それを聞かされて何も疑わないリリアン嬢の方があるいは大物かもしれん」
「何分、こちらでは異世界の事情はよく分からないもので」
「いくら何でも限度があるわ」
「ですが、レンタローが古武術マスターである事は確かなのでしょう。実際、リリアン嬢に古武術の奥義を伝授したのですから」
「レンタローは、リリアン嬢にどんな修行をさせていたんだ?」
「流石にそこまでは分かりませんでした」
「それさえ分かれば、グレタお嬢様も同じ修行をすればいいだけの話なのですが」
アランが横から口を挟み、
「いや、同じ修行をさせたとしても、例の技をグレタ嬢が習得出来るとは限らん。仮に習得出来たとしても、ヒロインと悪役令嬢が戦えば、後者がフルボッコにされる可能性の方が高い。物語的に言って」
エイジンが否定的な意見を述べた。
「物語的?」
「前にも言ったけど、この世界はどうも少女漫画っぽい気がするんだ。その場合、リリアン嬢がヒロインで、グレタ嬢が悪役令嬢なんだが、物語的に、悪役令嬢は最後に酷い目に遭うと相場が決まっている」
「現に今、酷い目に遭っているのとは別に、ですか?」
アランは、少し離れた所で意味もなく穴を掘らされているグレタを指差して言った。
「ああ。さらに言うと、この少女漫画がギャグかシリアスかで、悪役令嬢がどの位酷い目に遭うかも大いに変わって来る」
「ギャグなら?」
「全身派手に包帯グルグル巻きで病院に担ぎ込まれて、『ぐやじいー! 覚えてなさいよー!』、とか言ってベッドの上で歯ぎしりする場面で終わり」
「シリアスなら?」
「植物人間となって車椅子に座り、光のない瞳で虚空を見つめているグレタ嬢の側で、アラン君が、『あの時、お嬢様を無理にでもお引き留めしていれば』、と嘆く場面でフェードアウト」
「ギャグであって欲しいものです」
「もう半分ギャグに突入してる様なもんだけどな」
三人はそこで話を一旦止め、喜々として穴を掘り続けるグレタ嬢を、しばらく無言で眺めていた。