▼268▲ 「遊んでやる」と言って妹を自分の趣味に付き合わせようとする困った兄
グレタはその日の夕方までに、扇風機のプラモデルを完成させ、
「へえ、小さくてもちゃんと動くのね、これ」
本物さながらに左右に首を振る、そのリアルな挙動に驚いていた。
「風力が弱過ぎるのが難点だけどな。あと、モーター音が結構うるさい」
ミニ扇風機の前に手をかざしながら、感想を述べるエイジン先生。
「そうね。もう少し風が強ければいいのにね」
エイジンの手の横にくっつける様にして、自分の手をかざすグレタ。
「もっと強力なモーターとバッテリーに交換すれば、USB扇風機位にはいけそうだな。だが、これはこれで面白かっただろ?」
「ええ、今までプラモデルなんて作った事なかったけど、一つ一つ組み立てるのも面白いものね」
「明日はもっと普通のプラモを作る」
「今度はエアコン? ファンヒーター?」
「そんなプラモは扇風機以上にマニアックだろ。そうじゃなくて、普通の子供が作る様なオーソドックスな物を」
「何?」
「男の子なら皆大好き、第二次世界大戦中の戦闘機だ。異論は認める」
「戦闘機?」
「とりあえず隼から」
「何を言ってるのか、全然分からないんだけど。エイジンはそういうのに詳しいの?」
「俺も古い漫画で読んだ知識位しかないから安心しろ。ただ、今度は組むだけじゃなく、ちゃんと色も塗る。飛行機は基本的にすっきりした流線型で可動部も少ないから、戦車なんかよりは塗り易いぞ」
お兄ちゃんの趣味に無理矢理付き合わされて余計な知識が増えて行く幼い妹状態のグレタがきょとんとしていると、トレーニングの時間となり、アンヌがアランと共に稽古場にやって来た。
トレーニングに取り掛かる前に、二人は特別手当と休暇をもらった事の礼をグレタに述べ、
「早速、明後日から一週間程お休みを頂いて旅行に行きたいのですが、よろしいでしょうか?」
アランが尋ねると、
「ええ、構わないわ。二人で楽しんで来てちょうだい」
グレタは笑顔であっさり承諾を与えた。全く訳が分からない異世界の第二次世界大戦中の戦闘機より、若い使用人達の恋愛の方が、まだ話が分かるというものである。
「二人が帰って来るまでに、鍾馗、飛燕、疾風、五式と、一通り作れそうだな」
その一方で男の子の世界に入ったまま、訳の分からない事をつぶやくエイジン先生。
とりあえず、武術の修行とは何の関係もない様子。




