▼254▲ 主人思いのハニトラ犬の憂鬱
「何ですぐに助けてくれなかったんですか、エイジンさん。『助かった』と思った正にその瞬間に見放される、哀れな凌辱系同人誌のヒロインの気持ちにもなってください」
エイジンの取りなしで、ようやく取り調べという名の恫喝地獄から解放されたオードリーが、涙目で抗議する。
「言いたい事は分かるが例えが最悪だな。それに、あのジュディ様の事だから、どうせ特別手当をたんまり弾んでもらってるんだろう?」
特に同情する様子もなく、しれっと答えるエイジン先生。
「そりゃ、ここに送られる前に給料六カ月分を一括で頂いてますけどね。もうこんなキツい仕事、この十倍のお金を積まれてもやりたくないです」
「仕方ない。ジュディ様はガル家に迷惑を掛けたんだからな。そのお詫びの印にあんたをこっちに寄越さざるを得なかったんだ」
「ジュディ様もそう仰ってました。『申し訳ないけれど、あなたにしか出来ない事なの』って。お金がどうこうと言うより、ジュディ様にあんな風にお願いされたら断れませんて」
「意外と主人思いだな。ジュディ様も、俺が戻って来るタイミングに合わせてあんたをこっちに寄越した辺り、出来るだけダメージを少なくしようと配慮したんだろうよ。俺なら何とか上手くアンヌを言いくるめてくれるだろうと考えて」
「なら、もっと早く言いくるめてくださいよ!」
「『自分からスカートをまくりあげてアラン君にパンツを見せたり、ベッドに押し倒してアラン君にキスを迫ったり、不意を突いてアラン君の尻を撫でたりしたけれど、このハニトラメイドはアラン君とヤッてません』、てな具合にか」
「エイジンさん、私に何か恨みでもあるんですか」
「そういう危ない事は一切バラさずに助けてやったんだから、感謝しろよ」
「アランさんには二度と手を出しません。次からはアランさんから手を出す様に仕向けます」
「真面目なアラン君がアンヌ以外の女に手を出すかよ」
「そこがプロのハニトラメイドの腕の見せ所です。へっへっへ」
「懲りねえな、あんた。よし、今からアンヌに本当の事を」
「冗談、冗談ですってば! やめてください! 何なら、エイジンさんにちょっとムフフなサービスをしてもいいですから」
「それやったら、今度はグレタ嬢とイングリッドに事情聴取されるぞ。主に逆さ吊りで」
「全裸土下座が可愛く思えるレベルですね。一体ここはどんな裏稼業をやってるんですか」
「俺としても、これ以上あんたを危険な目に遭わせたくはない。ジュディ様の心証を悪くするからな。むしろジュディ様には、今後ともグレタ嬢と仲良くして欲しい所なんだ」
「仲良くするのは結構ですが、私はもう二度とここへ来たくないです」
「痛い予防注射をされてから、獣医さんの所に近寄りたがらない飼い犬か」
「でも、お兄さん達がまた何かやらかして、ガード家の城に来る分には大歓迎です」
「自分のテリトリーだと急に気が強くなる所もまんま飼い犬だな」
そんなやりとりの後、エイジン先生にすっかり犬扱いされたオードリーは、ガード家の自家用ヘリに乗り、尻尾を巻いてガード家の城へ帰って行く。
「ジュディ様に瞬間移動の魔法で送ってもらえないのか?」
去り際、エイジンが素朴な疑問を口にすると、
「ただでさえお疲れのジュディ様に、これ以上負担を掛ける訳には行きませんから」
主人思いの忠犬オードリーは、疲れの元凶に対してそう答えた。
魔法って、結構疲れるものらしい。




