▼253▲ 友好の証に差し出された人身御供
ジュディ捜査官は、はぁー、と長いため息をついた後、
「この一週間で十年分位疲れました。出来ればあなたには二度と事情聴取したくありません」
学校一の問題児に悩まされる若い女教師的な捨て台詞を吐き、
「俺もそう願うよ」
そう答えるエイジンを無視して、瞬間移動の魔法でいきなりその場から消え去った。
ジュディがいなくなり、ここぞとばかりにベタベタとまとわりつくグレタとイングリッドに、
「ところで、アラン君はどこだ?」
と尋ねると、
「稽古場にいるわよ。今、取り込み中だけど」
エイジンの右腕にすがりつくグレタが答える。
「取り込み中?」
「はい、ただ今アンヌが、ガード家から招いたメイドを事情聴取している所です」
左腕に絡みつくイングリッドが答える。
「うん、一瞬で事情を理解した。そのメイドの名前はオードリーだろう」
「はい。一週間前、アランの着ていたローブから微かに他の女の匂いがするのを感知したアンヌが、ジュディさんにお願いして、お世話係をしていたメイドを本日こちらに寄こしてもらったのです。『アランの浮気容疑』を取り調べる為に」
「そう言えばアランは、『エイジン先生が戻って来たら、すぐ稽古場まで連れて来てください』、って言ってたわね」
他人事の様にしれっと言うイングリッドとグレタ。
「そういう事はもっと早く言え」
二人に両腕にまとわりつかれたままエイジンが稽古場まで来てみると、竹刀を片手に持つジャージ姿のアンヌが鬼の様な形相で仁王立ちしている前で、以前の露出多めのフレンチメイド姿とは打って変わり、事務員の制服っぽい地味な服を着たオードリーが必死に土下座している場面に出くわした。
絵面だけ見るとヤンキー女に脅されて、受付の女の子が無理やり土下座で謝罪させられている様に見えなくもない。
そして、その傍らでオロオロしながらアンヌの怒りを鎮めようと釈明に努めている態の黒ローブ姿のアラン君。
が、こういう場合、釈明すればする程、「何でこの女をかばうのよ!」と、怒りを買う悪循環に陥る事を分かっているかどうかは不明。
「あ、エイジン先生! エイジン先生からも言ってあげてください! このメイドさんとの間には何もなかったと!」
「エイジンさん、お願いします! 私がアランさんを寝取らなかった事を証言してください!」
入り口に立つエイジン先生に気付いたアランとオードリーが、ほぼ同時に助けを求める。
「じゃあな、頑張れよ」
それだけ言って踵を返し、その場を去るエイジン。
「エイジン先生!」
「エイジンさん!」
背後から二人の悲鳴。構わず稽古場の外に出るエイジン。
「いいの? 放っておいて」
グレタが尋ねると、
「面白いから、後五分だけ助けるのを待ってみよう」
稽古場の壁にもたれて淡々と言うエイジン。
「鬼ですね、エイジン先生」
嫉妬に狂うアンヌの怖さを身を以て思い知っているイングリッドが、無表情でぽつりと言う。




