▼251▲ 大阪名物と庭球少年
「反省しなさい!」
続けて一発、エイジンの頭にハリセンを食らわせるグレタ。
「だが断る」
わざとまじめくさった調子で答えるエイジンの頭に、無言でもう一発。
「助けた恩人に対してこの仕打ちか」
「こんな風に助けられたって、ちっとも嬉しくないわ!」
また一発。
イングリッドも一歩前に出て、
「どんな事情であれ、グレタお嬢様を悲しませた事は許せません」
エイジンの頭をハリセンで叩く。
「グレタお嬢様を助けた事はもっと評価されてもいいと思うんだが」
「言い訳は聞きたくありません」
さらにもう一発。
「あんたらに一つ言っておく。困難な事態に直面した時、悲しんでるだけじゃ何も解決しない。状況をしっかり把握し、冷静かつ現実的に対処する事こそ――」
この説教が終わらない内に、
「こんな事をされて冷静でいられる訳ないでしょう!」
「悪い事をしたら、まず『ごめんなさい』ですよね、エイジン先生?」
二人のハリセンが同時にエイジンの顔面を直撃する。
「見ろ、あんたがハリセンなんか与えるから、この二匹の猿が間違った使い方をして困る」
話を聞こうとしない二匹の猿を無視して、エイジンがジュディに抗議するも、
「どれだけこのお二人が辛い思いをしたのか、まずはそこを思いやるべきではないのですか?」
無表情で突っぱねるジュディ。
「そうよ! ジュディの言う通りよ!」
「それと誰が猿ですか。ウキー!」
もちろんその直後、エイジン先生の顔面にダブルハリセンが炸裂。
「その辛い思いをさせた元凶はあんたじゃねえか」
叩かれた鼻をさすりつつ、さらにジュディに異議を唱えるエイジン。しかし、この場にいる三人の女は誰もそれに同意しない。特定の男子を敵と認定した時の女子の結束は異常に固いのである。
その後も十分程、グレタとイングリッドは、無抵抗かつへらず口を叩き続けるエイジンを、魔女裁判の如く一方的に糾弾しながらハリセンを食らわせ続けていたが、やがて高見の見物を決め込んでいたジュディが、
「お二人共、お怒りはごもっともですがキリがありません。ここは一つ、最後を盛大にやって手打ちとしませんか?」
と無表情で提案し、
「そうね、任せるわ」
「お嬢様がよろしければ、それで」
二匹の猿もそれに同意する。当然、エイジンの意志は無視。
「では」
ジュディが指で宙に二回円を描くと、その軌跡に沿って直径二十センチ程の光の輪が二つ現れ、エイジンの方に真っ直ぐ飛んでいき、その両肘にがっちりとハマって、両腕を拘束した。
「グレタさんとイングリッドさんは少し離れた所でハリセンを構えて待機していてください。さて、賢いエイジンさんなら、自分がこれからどんな目に遭うのか、もうお分かりですね?」
「大阪名物かよ。しかもダブルか」
カカシの様に両腕を横に伸ばした状態で拘束されているエイジンが、ため息をつく。
「エイジンさんの世界のテニス漫画にも、こんな技がありましたね」
「ツインなんちゃらって奴か。って、誰も知らねえよ、そんな古い漫画! せめて百八式とかにしろよ!」
「それでは、行きます」
エイジンのツッコミを無視して、合図をするジュディ。
と、体が両肘にハマった輪に引っ張られ、やむを得ず前に駆け出すエイジン。
その先にはグレタとイングリッドが、両サイドからピンボールのフリッパー部よろしくハリセンを構えて待ち受けている。
数秒後、光の輪が消えて拘束が解かれるも、慣性の法則に逆らえず全速力で駆けこんで来るエイジンの顔面に、グレタとイングリッドの繰り出すハリセンが同時に激突。
「ぐはっ!」
その場で背中から豪快にブッ倒れるエイジン。
「大丈夫、エイジン? 痛くなかった?」
その見事なコケっぷりに、心配したグレタがあわててかがみこんで問うと、
「だったら最初からやるなよ!」
すかさずツッコミを入れつつも、
「だが、お笑い的にはそれが模範解答だ」
笑ってへらず口を叩くエイジン先生。




