▼25▲ 古武術詐欺の極意
翌朝、稽古場に向かう途中でアランと合流したエイジン先生は、昨晩イングリッドがやらかしたエキセントリックな痴女行為の一部始終を語った。
「そんなはしたない事をする様な人ではなかったのですが」
イングリッドが自分の胸にエイジンの手を誘導したくだりを聞いて、顔を赤くしたアランが言う。
「もしかするとあのメイドは、こっちが抵抗しないのをいい事に、逆セクハラの楽しさに目覚めてしまったのかもしれない。放っておくと、第二、第三の犠牲者が出るかもな。アラン君みたいな若い男は真っ先に狙われるぞ」
「怖い事を言わないでください」
「イングリッドが夜中にアラン君の部屋に忍び込んだ所を、アンヌに見つかったら修羅場だな。二人共格闘家だから、壮絶なバトルが見られそうだ」
「他人事だと思って、無茶苦茶言いますね。エイジン先生」
「まあ、冗談はともかくとして、イングリッドは俺の右腕を調べて、ますます疑いが大きくなっただろうよ。武術をやってる人間の筋肉じゃないのは明白だからな」
エイジンは、アランに見せ付ける様に、自分の右腕を持ち上げた。
「大丈夫なんですか」
「さあね。とにかく今はまだ大丈夫だ。挑発に乗らずに、直接戦う事さえしなければ、武術家の力量なんか分かる訳がない。逆にうっかり戦ったら、一発で弱いのがバレちまうが」
「色々な意味で、戦ったら負けなんですね」
「そう、古武術詐欺の極意は、『何があっても、絶対に戦わない事』だ」
世にも情けない極意を、ドヤ顔でのたまうエイジン先生だった。




