▼245▲ へらず口の達人
「真に断罪されるべきだったのはグレタさんではなく、エイジンさん、あなたの方だったのです」
無表情で糾弾するジュディ捜査官に対し、
「いや、その理屈はおかしい」
そのまじめくさった調子を真似て、無表情で異議を唱えるエイジン先生。
しかし、ジュディは無表情を崩す事なく話を続ける。
「私は泣きじゃくるグレタさんを何とか落ち着かせ、事情聴取を行いました。エイジンさんをこちらの世界に召喚した件だけでなく、それ以前の事もです」
「この状況を悪用して、グレタ嬢とジェームズ君との関係もハッキリさせておこうとした訳か。二人が婚約者としてどの程度まで仲が進展していたのかは、あんたが一番知りたかった事だもんな」
一転、おどけた調子になってジュディをおちょくるエイジン。
痛い所を突かれたのか、ジュディは言葉を詰まらせ、それをごまかす様に紅茶を一口飲んだ。
「だが、聞くまでもないだろう。グレタ嬢とジェームズ君の間には何もねえよ」
「グレタさんから聞いたのですか?」
「聞いたと言うより聞かされた。だが、聞かなくても分かる。もしわずかでも愛があったなら、ジェームズ君をフルボッコにして逆さ吊りには出来ないからな」
「世の中には愛する者を傷付けるタイプもいます」
「ヤンデレか。だがその場合、『ヤン』だけでなく『デレ』がセットになる。グレタ嬢はジェームズ君に対して『デレ』がない」
「二人だけの時に『デレ』ていたとしたら?」
「そもそもあの真面目で優しいジェームズ君が、『デレ』た相手を捨てて他の女に走ると思うか? 彼が婚約破棄を申し出たのは、グレタ嬢との間に愛がない事を互いに承知していたからだ」
「確かにその通りですね。ジェームズさんは『デレ』た相手をあっさり見捨てられるあなたとは違います」
「そこまで『ジェームズお兄ちゃん』の事をよく知ってるはずなのに、グレタ嬢との仲をつい疑ってしまうのは、あんたが嫉妬に狂ってたからだ。寄せる想いが深ければ深い程、寝取られ妄想は激しくなる」
エイジン先生の失礼な言いがかりに、ジュディはまた心を落ち着かせようとしたのか、紅茶を一口飲んでから、
「グレタさんは『デレ』を内に秘めていたのかもしれませんよ」
「それはあんたの事だろ」
言葉を詰まらせたジュディは、また紅茶を一口飲んだ。
ジュディが何か言う度に倍にして投げ返す、割と容赦のないエイジン先生。
相手の力を利用して逆にダメージを与えるのは、ある意味武術の理想形。




