▼244▲ 愛と魔法の力関係
「さて、ここで問題です」
突然ジュディ捜査官が、それまでの話の流れをぶった切って、クイズ番組の司会者の様な事を言い出した。無表情で。
「唐突だな。何だ」
あまり気乗りしない様子で聞き返すエイジン先生。
「おとぎ話の眠り姫は、なぜ王子様のキスで百年の眠りから目を覚ましたのでしょう?」
「『いばら姫』か? また乙女チックなクイズだな。十三番目の妖精がかけた『死』の呪いを、十二番目の妖精が『百年の眠り』に修正したからだろう」
「なら、姫は百年後に自然に目覚めるはずです。王子様は要りません」
「自然に目覚めるバージョンもあったと思うが。まあ、うら若き乙女が寝てる時に、見ず知らずの男にキスされたら驚いて目が覚めるかもしれん。『何しやがるこの変態野郎!』って叫びながら、王子様のアゴに一発くらわせたりして」
「ロマンチックなおとぎ話をベタなコントにしないでください」
「冗談だ。で、答えは?」
「正解は、『愛は魔法より強い』、からです」
「吐き気がする程ベタでロマンチックだな」
肩をすくめるエイジン先生。
「これは魔法全般における最大の鉄則です。どんなに強大な魔法といえども、一途な愛の前には無力なのです」
「なるほどね。で、何が言いたい?」
「一週間前、エイジンさんを強制送還した後すぐ、アランさんから連絡を受けたグレタさんが自家用ヘリで城に乗り込んで来ました」
「ついに『狂犬』がカチコミに来たか。ガル家とガード家との仁義なき抗争が勃発したって訳だ」
「グレタさんがどんな暴力に訴えようとも、私は自分のした事を撤回する気はありませんでしたが」
「あんたはグレタ嬢位の相手なら、魔法で余裕で勝てるもんな」
「血相を変えてやって来たグレタさんは、私の着ていたローブの胸倉を掴んで」
「魔法界の大物を投げ技に持ち込む気か。無謀な事を」
「いえ、そのまま私の胸にすがりついて、身も世もなく泣き崩れたのです。『お願い、エイジンを返して』、と懇願しながら」
「『愛は魔法よりも強い』、か。魔法界の大物も乙女の涙には敵わなかった、と」
「それまで私がグレタさんに抱いていたイメージは一変しました。この人は『狂犬』などではなく、愛しい人を一途に想う一人の乙女に過ぎなかったのだ、と」
「ま、人間、直接腹を割って話してみないと分からんもんな」
「ええ、そしてもう一つ。てっきり『狂犬』の被害者だと思っていた男が、実は一途な乙女心を平然と踏みにじる事の出来る女の敵だったと気付いたのです」
「もしかして俺の事を言ってるんじゃないだろうな」
「もしかしなくてもあなたの事です、エイジンさん」
ジュディ捜査官は冷たい目をエイジンに向けた。
「しかも、自分の足でなく、他人の足を使って踏みにじろうとしたのですから、タチが悪いにも程があります」
無表情だが少し怒ってるかもしれない。




