▼243▲ 崖の上のマジックショー
「一体何の話だ」
魔法陣の中に座ったまま、寝起きドッキリの犠牲者よろしく眠そうな声でジュディに抗議するエイジン先生。
「取引は無効です。よって、エイジンさんをこちらの世界に再召喚しました。正確には再々召喚かもしれませんが」
寝起きでまだ頭がよく働かないエイジンに対し、一方的に淡々と話を進めるジュディ捜査官。
「まだ三十日経ってねえのに俺を呼び戻したって事は、別の魔法陣を使ったのか。あんたも豪儀だな」
「手痛い出費ですが、緊急事態につき、最短の手段を使わざるを得ませんでした」
「何だよ緊急事態って」
「ここからはオフレコで話しましょう」
次の瞬間、エイジンとジュディは海に面する断崖絶壁の上にいた。一週間前、エイジンが取引を持ち掛けた場所である。
「だから、いきなりテレポートするなっての! こっちにも心の準備をさせろよ!」
立ち上がって抗議するエイジン。でも岩場に裸足なので少し痛そう。
「よければサンダルをどうぞ」
ジュディがそう言うや否や、エイジンの目の前に黒いサンダルが現れた。
「遠慮なく使わせてもらう」
足の裏の汚れを手で払ってから、そのサンダルを履くエイジン。
「立ち話も何ですから、椅子とテーブルも用意しましょうか」
何の前触れもなく、二人の目の前に白い丸テーブルと二脚の白い椅子が出現し、
「飲み物は紅茶でいいですね?」
続いてテーブルの上に、湯気の立つ熱い紅茶が入った二客の白いティーカップが現れる。
「二時間サスペンスドラマが世界のマジックショーになってるぞ、おい」
文句を言いながらも椅子に座り、紅茶に口を付けるエイジン。
「ミルクと砂糖は入れますか?」
「いらん。マジックショーはもういいから、さっさと話に入ってくれ」
うんざりとした口調でエイジンが促すと、ジュディも椅子に座り、
「一週間前、私を言葉巧みに騙し、結婚詐欺の片棒を担がせようとしましたね、エイジンさん?」
単刀直入に話を切りだした。
「誤解だ。おれは結婚詐欺師じゃない。百歩譲って古武術詐欺師ならまだ分かるが」
冷静に返すエイジンだったが、
「あなたは結婚をエサにして二人の若い女性の体を散々弄んだ挙句、何の責任も取ろうとせずに逃亡を図りましたね?」
「ねーよ! 人聞きの悪い事言ってんじゃねえ!」
これには流石に声を荒げて異議を唱えた。
「しかもその手口が巧妙で悪質です。毎晩女性達と風呂と寝床を共にし、自分への好意に付け込む形で恥知らずな行為に及んで、その気にさせておいてから最後の一線だけは越えさせず、いつまでもお預け状態をキープして大金を巻き上げようとしていたそうじゃないですか」
「誰に聞いた、そんなホラ話。大体想像は付くが」
「グレタさんとイングリッドさんとアランさんから聞いた話を総合しました」
「そいつらの話は『混ぜるな危険』、だ。特に真ん中の奴の話は信用するな。ってかあんた、アラン君からもエロ話を聞いたのか」
「はい。全て詳細に聞き出しました」
「尋問されている間、郵便ポストみたいに真っ赤になってただろうな。アラン君もさぞや辛かったろう」
自分が普段やっている事を棚に上げ、アランに同情するエイジン先生。




