▼242▲ 勝つまでやめないチェス人形の逆襲
ジュディ捜査官に立て替えてもらった二千万円と共に元の世界に強制送還された船越英人は、異世界に残して来た者達の事など全く心配している様子もなく、呑気な無職ライフを謳歌していた。
「『なる様になる』こそ、この世の理なり、だ」
強制送還の際に詠唱されていた、いかにもダメ人間が好みそうな呪文がいたく気に入ったらしく、日に何度となく口にする英人。
しかし、元の世界に戻ってからちょうど一週間目の明け方、ぐっすり寝入っていた英人は奇妙な感覚で目が覚める。
背中には固い大地の感触があり、見上げればそこには見知らぬ天井どころか、吸いこまれる様な真っ青な空がこれでもかとばかりに広がっていた。どこ行った天井。
「御苦労様でした、デビー」
聞き覚えのある声の方向にエイジンが首を向けると、少し離れた所に黒ローブ姿の女が二人立っている。
一人は見知らぬ少女だが、もう一人の方はエイジンもよく知っている無表情な「メルツェルの将棋指し」もとい、ジュディ特別捜査官その人だった。
「こいつは夢じゃなさそうだな、おい」
そう言いながらゆっくり上体を起こして辺りを見回せば、そこはまさしく一週間前にエイジンの強制送還が行われたガード家の別荘の城の中庭に間違いない。
「おはようございます、エイジンさん」
地面に描かれた魔法陣の中であぐらをかいて座っている作務衣姿のエイジンを無表情で見下ろし、淡々と声を掛けるジュディ。
「よくも私を騙してくれましたね」




