▼241▲ エンドクレジットの後にまだ何かあるんじゃないかと疑う気持ち
しばらくして、オードリーが二千万円分の札束が入った紙袋を持って書斎に戻って来ると、エイジン先生はそれを受け取って領収書にサインし、
「確かに金は頂いた。これでもう何の心残りもない」
と心底満足げに言う。
「こっちには心残りしかありません」
そんな薄情極まるエイジン先生に対し、山程言いたい事がありそうなアラン。だが、もうどうする事も出来ない。
「では、エイジンさんを元の世界へお送りしましょう」
ジュディ捜査官の後について一同が城の中庭に出ると、隅の方に直径二メートル程の魔法陣が三つ並べて描かれている場所があり、その傍らに黒いローブを着た少女が待機していた。
「その魔法陣の中に入ってください、エイジンさん」
淡々と指示するジュディ捜査官。
「はいよ。じゃ、いよいよお別れだ、アラン君」
何のためらいもなく指定された魔法陣の中に足を踏み入れ、アランの方を振り返って爽やかに微笑むエイジン。
「こんな酷い処分をグレタお嬢様が到底納得されるとは思えません」
まだ釈然としない表情のアランに対し、エイジンは笑って、
「もういいよ。無理すんな。どうしても異議申し立てがしたいって言うなら、弁護士を立てて正当な手続きを経て、終始冷静にやる様に言っといてくれ。ま、あのジュディ様相手じゃ何を言っても無理だろうけどな」
ジュディの方を無遠慮に指差した。
「準備は良いですか? エイジンさん」
ジュディは特に何の感慨もなく、ゴミ集積所にゴミ袋を捨てるが如き無表情で、淡々とエイジンに声を掛け、
「ああ、やってくれ」
エイジンも特に何の感慨もなく、タクシーの運転手に行き先を告げるが如き呑気さで、淡々とジュディに答える。
「ドリス、お願い」
ジュディに促され、ドリスと呼ばれた黒ローブの少女は呪文の詠唱を開始した。
「あるべき者、あるべき場所に還れ。『なる様になる』こそ、この世の理なり」
すぐに地面に描かれた魔法陣が青白い光を放ち、
「なる様になれ!」
最後にかなり無責任とも取れる投げやりな言葉が叫ばれると同時に、魔法陣から放たれた青白い光がそのまま上空へ円筒形に伸び、その光が消えた時、この世界からエイジンの姿はきれいさっぱり消えていた。
それを見届けたジュディ捜査官はアランの方に向き直り、
「では、アランさん。色々とお手間を取らせましたが、これで全て終わりです。ヘリでガル家までお送りします」
やはり無表情のまま淡々と言い渡したが、アランは首を横に振り、
「いえ、私はここに残ります。城の電話を使わせて頂けませんか?」
「何故です?」
「今からガル家に、エイジン先生が元の世界に強制送還された旨を連絡します。そうすれば、グレタお嬢様は抗議の為に文字通りこちらへすっ飛んで来るに違いありません。今戻ると、行き違いになりますから」
「そういう事ですか。了解しました、客室にある電話を使って構いません。ただし、会話は録音させてもらいます」
「ありがとうございます。それと、忠告などと言っては、おこがましいかもしれませんが」
「何です?」
「どんな取引があったのかは知りませんが、気を付けてください。多分、いや、絶対ジュディさんはエイジン先生に騙されていますよ」
「何か根拠があるのですか?」
探る様な目をアランに向けるジュディ。
「根拠はありませんが」
かつて騙された内の一人、アラン君はその視線を真っ向から受け止め、確信と共に言い切った。
「エイジン先生はそういう人なんです」




