▼240▲ お別れの前に一番気になる事
「悪いが取引の性質上、部外者には何も教える訳には行かない。内容を知られたら、この取引自体がパァになる。その位、今回の相手は手強かったって事だ。何たって『魔法界の大物にして魔法捜査局特別捜査官』だからな」
パニくるアランとは対照的に、いつもの飄々とした口調で語るエイジン先生。
「そ、それは、そうですが――」
アランはジュディの方に向き直り、
「お願いします、ジュディさん! どんな取引だったのかは知りませんが、どうかもう一度考え直してください! エイジン先生は何も悪い事はしていません。もし落ち度があるとしたら、召喚を行ったこの私の方です!」
真剣な表情で必死に懇願したが、
「誰が悪いとか悪くない、と言うレベルの話ではありません。嫌な言い方をしてしまえば、もう裏取引は成立しているのです。この決定が覆る事はありません」
ジュディ捜査官は無表情でこの訴えを却下する。
「これはグレタお嬢様にとって、ご自身が逮捕されるより辛い処分です! どうか、取り調べの続行をお願いします!」
「駄目です」
「そこを何とか!」
「もうやめとけ、アラン。俺の尊い犠牲を無駄にするな。下手をするとお前まで逮捕される事になるぞ。その場合、アンヌがどれだけ辛い思いをする事になるか考えてみろ」
エイジンがまた横から口を挟む。
「くっ……!」
痛い所を突かれて絶句するアラン。
「気にするな。元々、俺はこの世界にいるべき人間じゃなかったんだよ。お前達の世界の事件はお前達自身が解決すべきだったのかもしれないしな。ま、召喚されたのも何かの縁だ。俺は最後にお前達を一つ助けて、この世界を去る事にするよ」
「エイジン先生……」
「グレタ嬢とイングリッド、特にグレタ嬢にはくれぐれもヤケを起こさない様に言っておいてくれ。頼んだぞ」
「エイジン先生の知恵を以てしても、どうにもならないんですか?」
「ああ、どうにもならねえ。相手はこの世界の法律のプロだ。チェスの名人とそこらの子供が対局する位、無理がある」
「ではせめて、ここにグレタお嬢様達を呼んでから」
「駄目だ。これ以上秘密を漏らさない様に、俺はこのまますぐ強制送還される事になってる。今こうしてアラン君と話しているのだって、『普通の会話に見せかけて、何か情報交換を行ってるんじゃないか』、って疑われてるんだぜ」
万策尽きたアランは、がっくりと肩を落としてうなだれた。
「そう、しょげるな。それにアラン君には最後にお願いしたい事がある」
「何ですか?」
何か策でもあるのかと、微かな希望を抱いてアランが問うが、
「グレタ嬢と約束した報酬の二千万円は、ありがたい事にジュディ様が一時立て替えてくださるそうだ。そこで、俺がこれから現金を受け取って領収書にサインするんだが、その証人になって欲しい。で、後日ガル家に請求が行ったら、ジュディに二千万円支払われる様、しっかり手配しておいてくれ」
この期に及んで金の話しかしないエイジン先生の態度に、その微かな希望も消え去った。
もう、アランにはツッコむ気力すらない。




