▼24▲ 自由を奪われた右腕
なし崩し的に居座る事に成功したその日の深夜、寝ていた居間のソファーからむくりと起き上がったイングリッドは、足音を忍ばせてエイジン先生が寝ている寝室に侵入し、よく寝入っているのを確認してからその右腕をそっと持ち上げ、指先から肩までその肉付きを確かめる様に、執拗に触り始めた。
一通り触りまくった所で、
「何をしてる」
流石にエイジンも目が覚める。
「よくお休みになられているかどうか、見回りに参りました」
ナイトランプだけが点いている薄暗がりの中で、エイジンの右手首をつかんで持ち上げたまま、いけしゃあしゃあと答えるイングリッド。
「入院中の看護師の巡回じゃあるまいし。そうやって腕を持ち上げられていると、こっちはよくお休みになれないんだが」
抗議を無視して、イングリッドはつかんだ腕を誘導し、その掌を自分の左胸に、ぐい、と無言で押し付けた。
ノーブラなのでパジャマ一枚しか隔てていない、暖かくて柔らかい胸の感触が、エイジンに伝達される。
「何をなさるんです、エイジン先生」
逆に、棒読みで抗議するイングリッド。
「それはこっちのセリフだ」
「メイドの職務に、この様な破廉恥なサービスは含まれておりません」
「そう思うんだったら、とっとと手を離せ」
「仮に私がエイジン先生の手を誘導しているとして」
「仮にも何も、その通りなんだが」
「なぜ、手を振り払わないのです? 私の胸がそんなに気に入りましたか?」
「それ以前に自分が何をやっているのか、胸に手を当てて考えてみろ」
「はい」
ぐい、とさらに力を込めて、イングリッドは自分の胸にエイジンの掌を押し付ける。
「違う、俺の手じゃない。いいから、さっさと離――」
その言葉が終わらぬ内に、イングリッドはエイジンの掌を自分の胸から離したが、今度はそれをパジャマの内部にもぐりこませ、直接生乳への誘導を試み始めた。
「エイジン先生、流石にそれは洒落になりません」
「あんたが自分でやってるんだろ!」
イングリッドはがっちりとつかんでいるエイジンの手を、自分の下乳の直前で止めて、
「なぜ、手を振り払わないのです?」
と、同じ事を再度尋ねた。
こんなうらやまけしからん、もとい異常なシチュエーションにも拘わらず、エイジン先生は、
「その前に、客が寝ている部屋に許可なく忍びこんで、勝手にその腕を撫で回した挙句、自分の胸に触らせようとした事について、ガル家のメイドとして何か言う事はないのか?」
と、冷静に尋ね返す。
薄暗がりの中でしばし沈黙の後、イングリッドは、パジャマの中からエイジンの腕を出して解放し、
「大変失礼な振舞いに及んでしまい、申し訳ありませんでした」
と、非を認めて頭を下げた。
「分かったらいいよ、もう出て行ってくれ。」
エイジンが解放された腕を引っ込めながら言う。
「お詫びに今から全身マッサージをさせて頂き」
「出てけ」
メイドがオカンから痴女にクラスチェンジしつつあった。




