▼239▲ 実際に得られた物と本当に必要だった物とのギャップにパニックを起こす顧客
午前中、アランが与えられた客室で、期待半分不安半分にそわそわしながら待機している所へ、
「アランさん、書斎まで来てください。ジュディ様がお呼びです」
ついにオードリーが呼び出しにやって来たが、見るからにテンションが低い。
「その様子だと、エイジン先生が無罪放免を勝ち取ったんですね?」
「あー、もう! せめて一週間位滞在してくれればいいのに」
「どうにもならない状況をいとも簡単に引っくり返してしまうのが、エイジン先生なんです」
少し得意げなアラン。
「こうなったら、最後にお兄さんと昨日の続きをしてから」
「ほ、ほら、早く行かないとジュディさんに怒られますよ!」
「ははは、冗談だって。本当にからかいがいがあるね、お兄さん」
オードリーは怯えるアランを書斎へと案内し、ドアを開けて中に送り込む際、最後のセクハラとばかりに軽くアランの尻を撫で、ビクッとして顔を赤らめるアランの表情をしっかり楽しんでから、抗議する暇も与えずに素早くその場を去って行った。
書斎に入り、ポーカーフェイスで机の向こうに座っているジュディと、その机の端に寄りかかってしたり顔のエイジンを確認したアランは、
「疑いが晴れて、私達は帰れる事になったんですね?」
と嬉しそうに聞く。
「ああ、お前だけな、アラン君」
エイジンが軽い調子で答える。
「え?」
「俺はこれからすぐに元の世界に強制送還される事になった。その後は俺に対し、再召喚も向こうの世界に会いに行く事も禁止される。短い付き合いだったが、色々と世話になったな、ありがとうよ」
「な、何を言ってるんです? ジュディさん、これは一体どういう事ですか?」
あわてて机の方に駆け寄り、ジュディ捜査官に詰め寄るアラン。
「エイジンさんとちょっとした司法取引の様なものを行いました。今後、グレタさんとあなたへの捜査を打ち切る代わりに、エイジンさんには元の世界に帰ってもらいます。そして、二度とこちらの世界には干渉させません」
「ま、待ってください! いきなりそんな! 第一、エイジン先生は容疑者じゃないでしょう!」
「取引の詳細は教えられません。大人しく決定に従ってください」
無表情でアランに言い渡すジュディ。
「横暴です! いくら魔法捜査局の権限でも」
「おい、あまり捜査官を困らせるな、アラン君。俺がお前達の為に必死に交渉して、無罪放免を勝ち取ってやったんだ。ただ、代償なしって訳には行かなかっただけの話さ」
横から口を挟むエイジン先生。
「そんなの駄目です、エイジン先生! それに、グレタお嬢様とイングリッドがこの結果を聞いたら、文字通りパニックを起こしますよ!」
「『いついかなる時にもセルフコントロールを忘れるな、とエイジン先生が言ってました』と、伝言しておいてくれ」
「いやいや、そういう問題じゃなくて!」
文字通りパニックを起こすアラン君。




