▼238▲ 叶わぬ恋の処分法
エイジンからほとんど脅迫に近い取引を持ち掛けられたものの、
「いいでしょう。その取引に応じます」
さほど悩む様子もなく、無表情のままあっさりと承諾するジュディ。
「賢い人は話が早くて助かるぜ」
もはや、やっている事が完全に探偵役から小悪党にシフトしているエイジン先生。
「グレタさんを捜査していたのは、広く言えばこの世界の人々を守る為ですが、捜査の過程で何の罪もない人に、それ以上の風評被害が及んでしまったら本末転倒ですし」
「素直に言ったらどうだ? 『私怨でグレタを罪に陥れてやろうと思ったけど、それをやったら私がジェームズお兄ちゃんをずっと好きだった事が周囲にバレちゃうからやめる!』って」
「仮にエイジンさんの言っている事が正しかったとして、私がそれを認めると思いますか?」
「認めてもいいだろ。どうせ俺をすぐにこの世界から永久追放出来るんだし。『冥土の土産に聞かせてやろう』的な感じで」
「もし仮に、本当に仮に、私がジェームズさんの事をずっと好きだったとしたら」
ジュディは無表情ではあるが、エイジンを蔑む様な目で見据え、
「誰にも知られない様に一人密かに抱き続けていた報われぬ想いは、そのまま誰にも知られない様に墓場まで持って行くでしょうね」
「機械みたいに無表情な割に、中身は随分乙女チックだな」
「私は人間です。機械ではありません」
「正に『メルツェルの将棋指し』か。機械仕掛けと見せ掛けて、その実、中で人間がせっせと操作してる辺り」
「さあ、もういいでしょう、エイジンさん。取引は成立しました。後は速やかにそれを履行するだけです。それとも、まだこの崖の上で何か言いたい事はありますか?」
「ない。強いて言えば」
「何です?」
「やっぱり、この世界は少女漫画だ。登場人物が皆どこかイカレてる、もとい、極端な所が」
「何の話ですか?」
「ここは俺の住むべき世界じゃないから早々に帰った方がよさそうだ、って話さ」
「エイジンさんが何を言っているのかはよく分かりませんが、その望みはすぐに叶えて差し上げましょう」
無表情のままジュディ捜査官がそう言うと、次の瞬間、二人は断崖絶壁の上から、元いた城の書斎に戻っていた。
「いきなり戻すな。心臓に悪いだろ」
抗議するエイジンを無視して、
「ちょうど、異世界転移の準備が出来ている魔法陣がこの城にあります。他の用途に使われる予定でしたが、エイジンさんの為に、特別に使用を許可しましょう」
いかにも有能な捜査官らしく、てきぱきと事を進めて行くジュディ。
あるいは単に、乙女チックな秘密を守る為に必死なのかもしれないが。




