▼235▲ 狂犬を狩る手順
「あんたはヒーローと結ばれるヒロインじゃなくて、せいぜい悪役令嬢を断罪する役人Aがいい所だ」
幼少の頃の甘酸っぱい思い出を無遠慮に暴かれた挙句、役人A呼ばわりされても無表情のまま平然としている鋼鉄メンタルのジュディに対し、エイジン先生はさらに容赦ない揺さぶりを加えて行く。
「結局想いを伝えられなかったまま、長年に亘る『ジェームズお兄ちゃん』への一途な恋に破れたあんたは、その行き場のない負のエネルギー全てをグレタ嬢への制裁に振り向ける事にした。『私が「ジェームズお兄ちゃん」と結婚出来なかったのは、全部「狂犬グレタ」が悪い!』、という訳だ。
「今までは『ジェームズお兄ちゃんの迷惑になるから』と思い留まっていた制裁だが、ジェームズ君がグレタ嬢との婚約を破棄して赤の他人となった今、あんたが躊躇する理由はもう何もない。これで心おきなく、グレタを刑務所にブチ込む事が出来る。
「そして、魔法捜査局特別捜査官の権限をフルに使ってグレタの身辺を探った所、『異世界から強引に召喚した男』の存在を知り、こいつを利用しようと思いついた。つまり、俺の事なんだが。
「まずは普通に、グレタが異世界人を虐待している可能性を調べる事にした。あの『狂犬』の事だから、召喚した男を監禁して暴力を振るっていてもおかしくはない。むしろそれが自然だ。被害者から証言を取れれば、罪をでっち上げるまでもなくグレタを正当な理由で逮捕出来る。
「俺達がおととい美術館に出掛ける事を知ったのは、チケットの予約状況を調べたか、小屋に盗聴器を仕掛けていたか、ガル家の内部にスパイを潜り込ませていたか、屋敷を出た俺達を部下に尾行させていたか、そういう特別な魔法を使ったのか、まあそんな所だろう。全部やってたら怖いが。
「ともかく、さっきも言った通り、あんたは美術館で何らかの精神操作系魔法を使って俺を一人にした上で接触し、通報用カードを渡した。犯罪が行われていれば、遅かれ早かれ俺が密告して来るだろうと思ってな。
「ところが、その密告が来る前にカードが魔法で調べられ、あんたはその気配を察知する。さてはグレタめ気付いたか、とあんたは計画を変更して、俺とアラン君を任意同行という形で急遽城へ連行し、事情聴取を行う事にした。本来なら被害者からの密告を受けて動く方が好ましかったが、この際なりふり構っていられない。
「何としてもあんたはグレタの罪をでっちあげるつもりだった。俺を言いくるめてそれっぽい証言を取れれば、あんたの手腕で後はどうとでもなる。世間におけるグレタ嬢の心証は最悪だし」
そこでエイジン先生は長演説を一旦打ち切り、無表情なままのジュディを真っ向から見据え、
「だが残念だったな、ジュディ様。俺はあんたの個人的な復讐に加担してやる程、人が好くないもんでね」
少しおどけた口調になり、
「それに『復讐はバカの自己満足に過ぎない』って事位、賢いあんたなら分かるだろ?」
以前、グレタにしたのと同じ様な説教で締めくくった。




