▼233▲ ロボットVS売れないコメディアン
崖の上で問い詰める相手がいよいよ観念して犯行を自白するどころか、その問い詰めの一つ一つに対してロボットのごとく冷静かつ無表情で打ち返して来るという、二時間ドラマのクライマックスが台無しな展開の中、
「さて、いよいよ核心部分に触れるとしようか。『なぜジュディ・ガードは、それほどまでにグレタ・ガルを憎むのか』、についてだ」
エイジン先生はめげることなく、まるで客席がシーンと静まり返った中、一人陽気に漫談を続けるコメディアンの様に、問い詰め役に徹していた。
「あくまで捜査官としての捜査対象であって、グレタさんに特別な私怨がある訳ではありません」
片やジュディは、そんなコメディアンの悪あがきを客席から退屈そうに眺めている飽きた子供の様。
「まず、グレタ嬢があんたに直接暴力を振るったとは思えない。あんた程の魔法使いなら、正当防衛の名の下にグレタ嬢を返り討ちにする事は、赤子の手をひねるより簡単だからな」
「暴力も何も、グレタさんとはほとんど面識すらないんですが」
何の感情も交える事なく、エイジンの問題提起そのものをばっさり否定するジュディ。
「じゃあ、誹謗中傷の類だろうか? 名誉を傷付けられる様な陰口を言われたり、根も葉もないひどい噂を流されたりしたとか」
「つまり、エイジンさんが今やっている様な事ですね」
特に気を悪くした様子もなく、無表情で冷静にツッコむジュディ。
「だとしても、あんたは顔色一つ変えず、平然とそれを聞き流せるだろうな。今俺が言っている事を聞き流している様に」
「妄想を一々真に受けていたらキリがありませんし」
年が若いにも拘わらず、大人な対応のジュディ。一々芝居掛かっているエイジンの方が子供に見えなくもない。
「だが、それでも、グレタはあんたにとってこの世で一番許せない存在なんだ。インチキをでっちあげてでも罪に陥れたい程にな」
「言ってる事が滅茶苦茶ですが」
「なぜなら、グレタはあんたがこの世で一番欲しかったものを奪い取ったからだ」
そんなエイジンの言葉にも、ジュディは表情一つ変える事はない。
ただ黙って、エイジンの次の一手を冷やかに待ち構えているだけである。
「この世界における魔法使いの大物ジュディ・ガードが、小さい頃から欲しくて欲しくてたまらなかったもの。それは――」
エイジンはそこで言葉を切り、無表情を貫くジュディに対して憐れむ様に微笑みかけ、
「『ジェームズお兄ちゃん』こと、ジェームズ・ストラグルだ。愛してもいないのにただ家同士の都合で、『ジェームズお兄ちゃん』を婚約者として奪い取ったグレタを、あんたはどうしても許す事が出来なかった」
挑発する様に大げさに肩をすくめてみせる。
が、それでもジュディは無表情を崩す事なく、冷やかにエイジンを見据えていた。




