▼232▲ 最後は全部疲労のせいにして解決しようとする某捜査官
「理由を話すと長い上にエロくなるが、グレタとイングリッドは美術品から目を離す事はあっても、俺から目を離す事だけはあり得ない。だから、あの時俺が彼女達とはぐれたのは、三人にそれぞれ精神操作系の魔法が掛けられていた事になる」
そこでエイジン先生は、ジュディをビシッと指差し、
「もちろん、その魔法を掛けたのはあんただ、ジュディ・ガード!」
二時間サスペンスドラマのクライマックスの崖の上の探偵役っぽく、大仰な決め台詞を口にした。
「妄想も度が過ぎると心の病気ですよ」
が、肝心のジュディはこの芝居に乗ってくれる事なく、無表情のまま淡々と諭す様に返答する。
「で、どうよ、ジュディ様。全部白状する気になったか? これが俺の世界の二時間ドラマなら、観念した犯人が、全部ベラベラと自分から喋ってくれる所だぜ」
「ずいぶんとチョロい犯人ですね。そんな人ばかりだったら、私達捜査官の仕事もすごく楽なのですが」
「あくまでもシラを切るってんだな。まあ、いい。もう少し話を続ければ、自然とあんたの気も変わるだろう」
「え、まだ続けるんですか、この三文芝居」
「話を元に戻すと、あんたが俺を単独で誘い出したのは、通報用のカードをあの二人に内緒で渡す為だ。俺が密告し易い様にな」
「前半は外れですが、後半はその通りです。召喚された異世界人の窮地を救うのも、私達の仕事ですから」
「ダウト。あんたは仕事として俺を救いたかったんじゃない。仕事にかこつけて個人的にグレタを陥れたかったんだ。違うか?」
「違います。そもそも、グレタさんが無罪か有罪かをはっきりさせる為に、エイジンさんに通報用カードを渡したのです。無罪ならよし、有罪ならその罪を償ってもらうだけの話で、私情が介在する余地はありません」
「あんた程の賢い人なら、昨日俺達に話を聞いた時点でグレタの無罪を確信出来たはずだ。にも拘わらず、ハニートラップ用メイドのオードリーまで用意して、俺達の事情聴取を長引かせようとしたってのは、何が何でもグレタを有罪にしようとする腹にしか思えないがね」
「何度も言いますが、エイジンさんが洗脳されている可能性を考慮しての事です。わざわざ崖の上に人を呼び出して、長々と妄想を語るエイジンさんを見ていると、その可能性がますます強くなって来た気がするのですが」
「あんたは魔法捜査局の特別捜査官という自分の権限内で、グレタ嬢を破滅させられる機会をずっと窺っていたんだ。もちろんグレタ嬢は暴力事件の常習犯だが、それはあんたの管轄じゃない。あんたが取り締まれるのは、何か魔法に関する違法行為だけだからな」
「前半は外れですが、後半はその通りです。私が取り締まるのは、魔法に関する違法行為に限定されます」
「そして調査の結果、俺が異世界から召喚された事を知り、自分の目的に利用する事を思い付いた。『異世界人を拉致同然に召喚し、脅迫した上で屋敷の敷地内に軟禁している』という罪状をでっちあげられないものか、と」
「逆です。その様な犯罪が行われていないかどうかを、今調べているのですから」
「どうあっても、俺の話を妄想で片付ける気か」
「残念ながら、全部妄想にしか聞こえません」
「もういいだろ、全部吐いちまえよ。こうして他に人のいない場所を選んだのは、ただの二時間ドラマごっこじゃなく、あんたに対する俺なりの配慮だったんだがな。本当はあんたも分かってるんだろう?」
「さっぱり分かりません」
「夕べ、あんたの知り合いのエリザベス・テイカーに俺が掛けた電話の内容も、全部盗聴してたんだろう? エリザベス嬢は気付いていないが、俺が気付いている事も分かってるはずだ」
「それも、さっぱり分かりませんが」
崖の上で問い詰められているにも拘わらず、無表情のまま全く動揺しないジュディ。
「じゃあ、はっきり言ってやるよ。あんたが今までずっと隠し通していた、誰にも知られたくない一番大事な秘密を」
「エイジンさん、あなた疲れてるのよ」
崖の上で問い詰める系のサスペンスドラマのはずが、いつの間にやら、毎回超常現象に巻き込まれる特別捜査官を描いたSFドラマの様相を帯びて来た。




