▼231▲ 最大の違和感にして最大の惚気
「そもそも魔法捜査局の特別捜査官であるあんたが、あの美術館に一介のスタッフとして紛れこんでいた事自体に違和感があった」
リクエストに応じ、話を「違和感」の辺りまで巻き戻して再開するエイジン先生。
「私は自分が美術館のスタッフだと言った覚えはありませんが。ただスタッフと同じ黒ローブ姿なので、エイジンさんが勘違いしただけではないですか」
しかし無表情で平然と、この「違和感」を否定するジュディ捜査官。
「はぐれた連れの二人と、『人寄せの魔法』を使って引き合わせてくれたじゃないか」
「ただの親切心です。別にスタッフでなくとも、その位は普通にします」
「じゃあ、あんたはあくまでも客として、あの時偶然あそこに来てたって主張するんだな?」
「魔法使いが休暇を利用して魔法関連の美術展示を観に行っていたら、何かおかしいですか?」
挙句、ジュディから逆に問い詰められるエイジン先生。大げさに肩をすくめ、首を横に振り、
「次の違和感に行くぞ」
「私の質問はスルーですか」
ジュディを無視して問い詰めを続行する。
「初対面で、いきなり俺に通報用のカードを渡した事、これもよく考えると違和感がある」
「あの時のエイジンさんの様子がおかしかったので、事情を聞いた上でカードを渡したのです。魔法捜査局の一員としては、割と普通の行動ですが」
「しかも、アラン君が魔法でカードを調べただけで、こうして身柄を拘束されての事情聴取だ」
「前にも言った通り、『召喚した異世界人に対して、ひどい扱いが行われていないか』を危惧したまでです。それと、これはあくまでも任意同行ですので」
「この二つの違和感から、ある一つの疑惑が想起される。『ジュディ・ガードは、俺達があの美術館に出掛ける事を魔法捜査局の権限を悪用して察知した上で、俺とコンタクトを取ろうと待ち伏せていたのではないか』と」
「『その二つの違和感が正しいかどうか』について、一応疑ってみる気はないのですか?」
「ないね。この二つの違和感を裏付けて余りある、最大の違和感が別に存在するから」
「それは何です?」
「『どんな状況であろうと、グレタとイングリッドの二人が俺から目を離すはずがない』、という違和感さ。あんたは知らなかっただろうがな」
ここでエイジンは、してやったりという笑みを浮かべたが、これに対し、
「……とりあえず、『ごちそうさまです』とでも言っておけばよいのでしょうか?」
ジュディは無表情のままこう答えたものの、その口調にはやや呆れ返った様子が感じ取れた。




