▼23▲ 置き忘れた下着
月明かりに青白く照らされ、昼間とは異なる幻想的な光景を見せている夜の庭を、作務衣姿のエイジン先生が、パジャマ姿のイングリッドを追い立てる様にして、屋敷の方へ歩いて行く。イングリッドは大きな紙袋を手に提げており、その中にはシャワーを浴びる前に来ていたエプロンドレス一式が入っている。
ようやく屋敷の裏手にある使用人入口の手前まで来た時、
「あ、ちょっとお待ちください」
イングリッドはそう言って、手にしていた紙袋を地面に置き、その場にしゃがみこんで、袋の中をごそごそとかき回し始めた。
「どうした?」
エイジンも立ち止まり、イングリッドに声を掛ける。
「ここまで来て申し訳ありませんが、また小屋に戻らなければなりません」
「なぜ?」
「脱いだ下着を脱衣所に忘れて来てしまいました」
わざとらしい口調で、イングリッドが答える。しゃがんだままエイジンを見上げているので、パジャマの上衣の隙間から胸元が丸見えになっているのも、計算ずくと思われる。
「そうか、じゃあ、そのままにしておくから、明日取りに来い」
淡々と言うエイジン。
「他のものならいざ知らず、殿方の家に脱いだ下着をそのままにしておく訳には参りません。エイジン先生がどうしても有効活用したいと仰るのであれば、仕方ありませんが」
「誰が有効活用するか、そんなモン。って言うか、わざと忘れて来たな、あんた」
「ともかく、取りに戻らせて頂きます」
立ち上がると、くるっと方向転換して、来た道をすたすたと戻りだすイングリッド。エイジンも渋々後から付いて行く。
小屋に戻ると、イングリッドは脱衣所に行かず、寝室に直行してエイジンのベッドにもぐり込んだ。
「おい、何のつもりだ。下着を持ってさっさと帰れ」
「もう遅いですし、今晩もここに泊まります」
「そこは俺のベッドだ」
「ではご一緒に」
「断る。どうあってもベッドから出ないつもりか」
「今晩ここに泊まってもよい、と許可を頂けるなら出ます」
「許可しなければ?」
「ここでこのまま寝ます」
「どっちにしろ泊まるつもりなんだな」
「はい」
強情な猫に寝床を占領された状態のエイジン先生は、はぁ、とため息をつき、
「分かった、泊まる事を許可するから、とりあえず、そこから出てくれ」
そう言われるや否や、イングリッドは、がば、と跳ね起きて、丁寧にベッドメイキングをした後で、エイジンに向き直って直立不動の姿勢になり、
「ありがとうございます。ではお言葉に甘えて、今晩もここに泊まらせて頂きます」
頭を下げ、パジャマの上衣の隙間から覗く胸元が相手によく見える位置でぴたりと止める。
「さっさと脱衣所の下着を回収して来い」
そんな計算ずくの挙動を無視して、エイジンはイングリッドを寝室から追い払った。




