▼227▲ 腕相撲によるコントの指導例
エイジン先生が隣の部屋に戻ると、
「じょ、冗談はやめてください、オードリーさん!」
「へっへっへ、腕力ないんだねえ、アランさん。ほーら、もっと抵抗しないと、口と口がくっついちゃうよぉ?」
ホールドアップの格好で両手首をがっちりと掴まれたアランがベッドに押し倒され、その上に覆い被さったオードリーにキスされそうになっている所だった。
「逆レ同人誌のヒロインかお前は」
とりあえずテーブルの上に放置されていた三つのハリセンの内の一つを取り、オードリーの後頭部を思いっきり叩くエイジン先生。
「あたっ! あ、戻ってらしたんですか、エイジンさん」
「いいから、アラン君を解放してやれ。三つ数える内に離れないと、アラン君のおっかない彼女に言いつけるぞ、三、二、一」
「わっ! 離れます、離れますから! 全裸で土下座は嫌ぁ!」
あわててアランから離れるオードリーと、オードリー以上に狼狽してベッドから起き上がる恐妻傾向の強いアラン。
「アラン君も、何やってんだか」
そう言いながら、ハリセンでアランの頭も叩くエイジン。
「すみません、つい油断してしまいました」
「いやー、アランさんを見てると、ついからかってみたくなって、こうムラムラと」
神妙なアランと、反省の色のないオードリー。
「からかうってレベルじゃねえぞ。アラン君を襲ってる様にしか見えなかった」
「私、こう見えても腕力は結構あるんで。つい、悪ふざけし過ぎちゃいました。てへっ」
「自慢になるか。アラン君は『色男、金と力はなかりけり』の典型例だ」
「多分、エイジンさんにも腕相撲なら負けないよ。試してみる?」
挑戦的な笑みを浮かべながら、テーブルに肘を突いて右手を差し出すオードリー。
「アラン君同様、俺に勝っても何の自慢にもならんぞ」
そう言いながらも、ハリセンをテーブルに置いて肘を突き、オードリーの手を握るエイジン。
「じゃ、行くよ、お兄さん。レディー、ファイッ!」
合図の直後から、オードリーの右腕が一方的にエイジンの右腕をゆっくりと傾けて行き、あと一センチでテーブルに手の甲が着きそうになった所で一旦動きを止め、
「勝負あったね、お兄さん」
勝ち誇る余裕のオードリー。
「見かけに似合わず、結構強いな、あんた」
抵抗空しく、その状態から動けないエイジン。
「この勝負、私が勝ったらお兄さん達は一ヶ月この城に逗留ね」
「そんな約束はしてねえぞ」
「たった今決まりました。じゃ、そういう事で、ふんっ!」
一気にフィニッシュを決めようと、満身の力を腕に込めるオードリー。
だが、エイジンの腕はピクリとも動かない。
「あれ?」
「コントの基本を教えてやる」
そこから急にエイジンの腕に力が入って形勢逆転。あれよあれよと言う間にオードリーの腕が押し戻されて行き、乙女にあるまじき苦悶の表情を浮かべてオードリーが全力で抵抗するも、あえなく手の甲を反対側に押し付けられて終了。
額に汗を浮かべ、息を切らしながら、
「エイジンさん、実は滅茶苦茶腕力強くない?」
と言うオードリーの頭をハリセンで叩き、
「そこは、『かよわい女の子相手になんて大人げない!』とか、『今日の所はこれ位で勘弁してやる!』とボケるんだ」
ダメ出しをするエイジン。
「それと、どっちにしろ俺達は明日城を出て行くからな」




