▼224▲ 盗聴犯へのささやかな嫌がらせ
ハリセン工作教室を抜け出して自分の客室に戻ったエイジンは、まずガル家から支給された自分の携帯を懐から取り出し、
「やっぱり圏外か。この城、どんだけ山奥にあるんだよ」
使用出来ない事を確認してから、机の上にある白くて平べったいシンプルなデザインの電話の受話器を取った。
自分の携帯の画面でイングリッドの携帯の番号を確認しながら、手動で入力し終えると、
「はい、こちらガル家のイングリッドです」
すぐに聞き慣れた声が出る。
「エイジンだ。最初に注意しておくと、この電話は盗聴されているからうかつな事を言わない様に」
用件に入る前に、警告を与えるエイジン先生。
「分かりました。下ネタは控えます」
「いや、それは控えなくていい。盗聴してる奴は下ネタ大好きな変態ストーカー捜査官だから、きっと喜んでくれる」
「では全力で行かせて頂きます」
「ああ、ガンガン行ってくれ。むしろ真面目な話はするな。後々、不利な証拠として採用される恐れがある」
「つまりエイジン先生は今、監禁されて色々な物を搾り取られているんですね。サキュバス物のエロ同人みたいに」
「その調子だ。まあ、サキュバスというよりは機械仕掛けのチェスプレイヤーの方が近いかな。『メルツェルの将棋指し』とかの」
「中々マニアックなジャンルですね。今後のプレイの参考にさせて頂きます」
「キリがないから、一応用件だけ簡単に伝えておくぞ。今、ガード家の別荘の城でアラン君と事情聴取を受けているんだが、まだ当分時間が掛かりそうでな。とりあえず、今晩はこっちに泊まる事になった」
「では、この会話を盗聴している下ネタ大好きな変態ストーカー捜査官というのは、ガード家の関係者ですか?」
「ああ、この会話を盗聴している下ネタ大好きな変態ストーカー捜査官の名前はジュディ・ガードだ」
「エイジン先生はご存じないかと思いますが、ガード家と言えば魔法使いの超名門で、ジュディ・ガードはその一族の中でも一流の大物です。下ネタ大好きな変態ストーカーとは知りませんでしたが」
「一見真面目そうに見える奴程、業が深かったりするもんだよ。あんたみたいに」
「お褒めに与り光栄です」
「褒めてねえよ。そんな変態の大物が相手なんで、流石の俺もかなり手こずると思う。だが、最後には何とか上手く切り抜けて、そっちに害が及ばない様にするから安心してくれ」
「何と言っても相手は変態の大物です。くれぐれもお気をつけください。こうして会話している今も、実は大人のオモチャで責められながら恋人に電話をさせられるプレイの真っ最中なのかもしれませんが」
「どんな寝取られモノのヒロインだよ」
「喘ぎ声を必死に我慢しつつ普通に会話を続けようとしているエイジン先生もグッドですね」
「どう考えてもバッドエンドなんだが。それと、一つ聞きたい事がある」
「何でしょう?」
「エリザベス・テイカーの電話番号を教えてくれ。今日、あんたの所に掛かって来てただろう?」
悪い笑みを口元に浮かべつつ尋ねるエイジン先生。




