▼223▲ ハリセンの作り方と使い方
オードリーに白い厚紙とガムテープとハサミを用意させ、
「大体五センチ間隔で山折りと谷折りを繰り返す、いわゆる蛇腹に折った厚紙を二つ貼り合わせ、持ち手をテープでグルグル巻きにして、反対側をふわっと広げれば出来上がりだ」
それらを使って、慣れた手つきでハリセンを作って見せるエイジン先生。
「ハリセンでツッコむ時は、『音は大きく、痛みは小さく』、が鉄則。逆は最悪。ボケの頭を叩くのが基本だが、ここぞと言う時は顔面にぶちかますのもアリ。その際は横っ面を張るのではなく、真正面からバシッと一本で決めた方が見映えがいい。ただし、鼻っ面は結構痛いし、目に入ると危ないので十分に気をつける事」
作りたてのハリセンで、自分の頭と顔をペシペシと叩きながら説明した後、
「じゃ、実演してみせようか。アラン君、ちょっとこっちへ来てくれ」
「痛くしないでくださいよ」
少し腰が引けているアランを隣に立たせ、
「今からアンヌのいい所を五つ挙げてみてくれ。制限時間は一分間。じゃ用意、始め」
「え、いきなりですか? ええと、まず、優しい所ですね。美人だし。性格がいいし、あ、これは最初と被るかな? それから――痛っ!」
ちょっと照れつつも嬉しそうに惚気始めたアラン君の顔面に、エイジンが無言で真正面からハリセンを叩き込む。
「と、まあ、こんな風に使う。お笑いにおいてもバカップルは問答無用で断罪の対象だ」
「あはは、楽しそー!」
二人を見ながら笑うオードリー。
「ひどいじゃないですか、エイジン先生!」
鼻を押さえながら、ちょっと涙目で抗議するアラン君。
「許せ。知っての通り、俺は基本的に自分さえ良ければ後はどうでもいい人間なんで、アラン君がアンヌとどれだけイチャつこうが一向に構わないんだが、お笑い的にはツッコんでおかないと収まりが悪い。それが観客の求めているものである以上」
「誰ですか観客って」
「『自分がどう思ったか』ではなく、『観客がどう思うか』を考慮して動け。一度舞台に立ったお笑い芸人は、心を殺してかかる必要があるんだよ」
「こんなに熱心に人を指導してくれるエイジン先生は初めて見ました」
呆れつつ、ため息をつくアラン。
「しかしツッコミとは言え、やられっぱなしも可哀想なんで、アラン君にも叩かせてやるからハリセンを自作しろ。いい機会だから、オードリーも自分用のハリセンを作っとけ」
二人がテーブルの上でせっせと厚紙を折り始めたのを見届けてから、エイジン先生は席を立ち、
「俺は自分の部屋に戻って、ガル家に電話を掛けて来る。今日はこっちに泊まる事を連絡しておかないとな」
「あ、じゃあ、私が掛けて来ますよ」
そう言って立ち上がろうとするアランの頭を、素早くハリセンで叩き、
「俺がやっとくからいい。どうせあの二人の事だから、俺の声を聞かせろ、ってうるさく言うだろうし」
そのままドアの方へ向かった。
「今のは、私がエイジン先生にツッコミを入れてもいい所ですよね? 惚気を断罪する意味で」
背後から声を掛けるアラン。
「誰が惚気だ」
エイジンは振り返らずに言い返し、部屋を出て行った。




