▼221▲ 餌付けされるメイド
その後、エイジンはオードリーを連れてアランの部屋を訪れ、このハニトラっ子メイドの本性を余すところなく暴露したが、化けの皮をはがされた当のオードリーは、
「ま、そんな訳だから、お兄さんも観光に来たとでも思ってゆっくりしてってよ。滞在が延びれば延びる程、特別手当が支給されるんで」
屈託なくアランに笑いかけ、人を騙していた罪悪感など微塵も感じられない。
「よかった。新人イジメを受けて痴女の格好で性接待をさせられていたメイドさんはいなかったんですね」
騙された事に怒るどころか、むしろほっとした様子のどこまでも人が好いアラン。こういう所がついからかいたくなるものと見え、
「でもパンツ位ならいくらでも見せてあげるけど?」
不意に短いスカートの裾を両手でつまんでまくり上げ、中の白い布を見せつけるオードリー。
「そういうのはやめてください!」
赤くなって横を向き、押しとどめる様に両手を前に突き出して抗議するアラン。
「後で白い厚紙とハサミとガムテープを用意してくれないか、オードリー」
もう慣れたのか全く動揺せず、スカートをまくり上げたままのオードリーに淡々と話しかけるエイジン先生。
「いいけど、何に使うの?」
「ハリセンを作って、あんたが下ネタをかます度にそれで頭をはたいてやる」
「ひどい」
「渾身のボケをかましたのに、何もツッコミがない方が寂しかろう」
「あのお兄さんみたいに、真っ赤になってあたふたしてくれればそれで満足だけど?」
「いいから、スカートを元に戻してください!」
二人の呑気な会話に、つい声を荒げるアラン。
三人でアホな事をしている内に、別のまともなメイドによって夕食が部屋に運ばれて来た。特上寿司二人前である。
「豪勢だな。このヨーロッパ風の石造りの城の中で食うには違和感ありまくりだが」
テーブルの上に二つ並んだ丸い大きな寿司桶の中に、ぎっしりと詰められた色とりどりの寿司を見ながらエイジンが感想を述べる。
「エイジンさんの元いた世界の料理をご用意させて頂いたって訳です。高級寿司店からヘリで空輸したばかりの品だよ」
日本の歴代総理大臣の似顔絵がずらりと描かれたごつい湯呑に緑茶を淹れながら、オードリーが説明する。
「随分スケールの大きな出前だな。時にあんた、寿司は好きか?」
エイジンの言葉に、オードリーは耳をピンとそばだてて目を輝かせ、
「大好き!」
あからさまに、「くれるの?」、と期待に満ちた表情を浮かべた。
「ああ、一人前にしちゃ多すぎるからな。好きなネタを取れ。アラン君も少しこいつに分けてやってくれ」
「いいですよ、確かに量が多いですからね」
笑って承諾するアラン。
「いよっ、お兄さん達男前! じゃ遠慮なくゴチになりまーす」
エイジンとアランと一緒のテーブルに着き、分けてもらった寿司を実に美味しそうに食べるオードリー。
「よし、餌付けは成功したな。これであんたは俺達の仲間だ」
オードリーに申し渡すエイジン先生。
「甘いね、お兄さん。人は小動物を餌付けしてる時、自分もその小動物に餌付けされているんだよ」
負けじと言い返すオードリー。
餌付けしているのかされているのかはともかくとして、すっかり打ち解けてしまっている事は間違いない。




