▼220▲ 猫の美人局
「お兄さん達をこの城に引き留めれば引き留める程、特別手当が支給されるもんでね。だからここは一つ、助けると思ってしばらくゆっくりしてってよ」
エイジンの隣に移動し、その腕に自分の肩を密着させてスリスリし始める痴女っ子メイドのオードリー。さながら観光客に、「エサをちょうだい」、と体をすり付けて来る愛想のいい野良猫の様。
「他を当たってくれ。俺達はここに長居する気はないから」
そう言って馴れ馴れしい猫を手で押しやろうとするエイジン。猫はさっと身を引いて、
「おっと、踊り子さんには手を触れないでください」
「誰が踊り子さんだよ」
「でも一週間位逗留してくれたら、色々な所を撫でさせてあげるかも」
「仕事とは言え、ここに来るオッサン達相手にそんな事してたのか。若いのに大変だな」
「いや、してないって。『ひょっとして、この子とヤレるんじゃないか』、と思わせておあずけを食らわせ続けるのが極意」
「キャバ嬢かあんたは。だったらなおさら、もっと色っぽいお姉さんの方が適任だろう」
「いやー、自分で言うのもなんだけど、ウブそうな小娘の方が男ウケがよかったりするもんで」
「それであの三文芝居か。あれに引っ掛かる奴がいるのかよ」
「入れ食い状態だけど?」
「男って奴は……もっともあんたの場合器量がいいからな」
「お、もしかしてお兄さん私を口説いてる?」
「口説いてねえよ。むしろここまで手の内をバラしておいて、まだそう思えるあんたに呆れてる」
「こっちのざっくばらんな方が好きってお客さんも結構いるからね。大丈夫、まだお兄さんにもチャンスはあるよ」
「いらんわ、そんなチャンス。でもこの仕事、割と危なくないか? 中にはおあずけに耐えきれずに襲って来る奴もいるだろうに」
「悲鳴を上げれば、すぐに使用人がカメラを持って駆けつけるから大丈夫。で、証拠写真を撮って録音記録と一緒に『これを奥さんが見たらどう思うでしょうねえ』って突き付ければ、それから後はこっちの捜査に快く協力してくれるし」
「何その美人局」
「試しにやってみる?」
「試しで俺の人生を終了させるな。ところで、アラン君にもさっきの三文芝居で迫ったのか?」
「うん。あっちのお兄さんの方が反応がよかったよ。真っ赤になってちょっと可愛かった。仕事と関係なく、妙にからかってみたくなるって言うか」
「気持ちは分からんでもないがやめてさしあげろ。それにアラン君は彼女持ちだ」
「やっぱりね。でもさ、人の物って美味しそうに見えない?」
「痴女より危険思想だぞ、それ」
「あはは、冗談だって」
「それにそのアラン君の彼女ってのがおっかなくてな、以前、アラン君に夜這いをかけた別の女がいたんだが」
「ヒュー、アランさんやるねえ」
「その女は怒り心頭に発したアラン君の彼女によって、全裸で土下座させられてた」
「何それ怖い」
「パートナーが浮気した場合、男は浮気したパートナーを憎むが、女はちょっかいを出した浮気相手の女を憎むとか」
「よく聞くけど、それ本当なのかなあ」
「ともかく命が惜しかったら、あまりアラン君にはちょっかいを出さない方がいいぜ」
オードリーを脅すエイジン。思わずゴクリと唾を呑みこむオードリー。
もっともアラン君のケースは夜這いでも浮気でもなく、エイジン先生自身が仕掛けたタチの悪いイタズラだったのだが。




