▼22▲ 中々出て行こうとしないメイド
「食事は一人でされるより、たとえメイドであっても、誰か他の人と一緒の方が、美味しく感じられるものではないでしょうか」
キッチンのテーブルで差し向かいに座るイングリッドが、自分のオカンな行為を正当化する様な事をしれっと言ったので、
「『モノを食べる時には、邪魔されずに自由であってこそ救いがある』、という有名なグルメの言葉を知らないのか。そりゃ、気の合う仲間達と食うメシは楽しいさ。だが、独り静かに落ち着く雰囲気の中で食べたいという時に、他人にズカズカやって来られたら、間違いなくメシはまずくなる」
少しムキになって反論するエイジン先生。ちなみに二人が食べているのは、たけのこご飯に鰯のつみれ汁。下ごしらえまで済んでしまったら、その努力を無下に出来ない感がある料理だった。
「それはそれとして、これは美味い。後でまたレシピをくれ」
「かしこまりました」
食事が終わり、後片付けを済ませたイングリッドは、エイジンが居間で油断している隙に、着替えとタオルと入浴用品一式を持って、バスルームに滑りこむ。
「あ、こら! 今日はもう帰れ!」
それに気付いたエイジンが、後を追ってバスルームのドアを開けると、イングリッドは早くも下着姿になっていた。
あわててエイジンが閉めたドア越しに、
「エイジン先生、女性の着替え中に乱入されるのは、流石に犯罪かと」
と声を掛けて来るイングリッド。
「シャワーを浴びたら、とっとと帰れよ。もうここに泊める気はないからな」
エイジンが忌々しそうに言う。
やがて、湯上りさっぱりな状態で、パジャマに着替えたイングリッドがバスルームから出て来ると、
「出たな。早く帰れ」
と、ドアを指差すエイジン。
「こんな夜中に、女性を一人で外に追い出すのですか?」
「ここはガル家の庭の中だろう。治安に関しては何も問題ない」
「庭の中でも夜は怖くてたまりません」
「武闘派のあんたが言っても、全然説得力ないんだけど。よし、俺が屋敷まで送って行く」
「パジャマ姿のまま行けと?」
「庭の中を突っ切るだけだし、誰も見てない」
「ちなみに今、私はノーブラです」
「タオルを肩から掛けとけ」
素足におろしたての健康サンダルを履かせると、エイジンはイングリッドを、迷い込んで居付いた野良猫をしっしっと追い立てる様にして小屋の外に出た。




