▼219▲ 白い布の勝利
派手な内装はあまり施されていないがシンプルさが却って趣のある城の内部を、やたらスカート丈の短いメイドのオードリーに先導されて、エイジンとアランはダンジョン内を移動するRPGのキャラよろしくひたすら後からついて行く。
途中、何度か階段を上る度にオードリーは必死にスカートの後を手で押さえるものの、その下の白い布が丸見え状態なのは如何ともしがたく、アランは顔を赤くして目を逸らしていたが、エイジン先生はちょうどいい目印位に考えているのか平然と視界に入れている。
やがて二人は隣り合う客室にそれぞれ案内され、アランがオードリーに説明を受けている間、エイジンは初めて来た場所の匂いを嗅ぎまくる犬の様に、部屋の中のあちこちのチェックに余念がない。
床に這いつくばってベッドの下を調べている時に、ノックの音がして、
「お待たせしました。説明をさせて頂きます」
オードリーが部屋に入って来たが、ベッドの下から這い出たエイジンは立ち上がるのが間に合わず、ローアングルから白い布見放題状態。
一瞬あっけにとられた後で、あわててスカートの前を押さえるオードリー。だがその行為にそもそも意味があるとは思えない位短いスカート丈ではある。
「な、何をしてらっしゃるんですか?」
「盗聴器を探してた。この城は全館盗聴なんだろ」
平然とそう答えて悠々と立ち上がるエイジン先生。だが白い布を見ようと必死に待ち構えていた変態紳士の苦しい言い訳に聞こえない事もない。
「申し訳ありませんが、この部屋での会話は全部記録させて頂いてます。どこで録音しているかはお教え出来ません」
スカートから手を離しつつ答えるオードリー。
「そりゃそうだよな。教えたら意味ねえし。盗聴器と言えば」
エイジンは机の上にある電話を指差し、
「一番仕掛け易い場所と言うか、これ自体が盗聴器みたいなモンだが、この電話を使っても構わないか?」
「はい、ご自由にお使いください。ですが、会話は録音させて頂いています」
「じゃ、後で遠慮なく使わせてもらう。今晩ここで泊まる事を一応ガル家に伝えておかないとな」
「今晩だけでなく、何日かご滞在して頂く事になりますが」
「そんなに長くはいねえよ。多分、明日にはこの城を出る」
「『洗脳を解く為には時間が必要』と、ジュディ様が仰っていました。ですからエイジン様はしばらくこの城で過ごされる事になると思います」
「任意同行だからいつでも帰っていい、と言われてるぜ」
「事件解決の為にご協力をお願いします。その代わり、ご滞在中は出来るだけご不自由のない様に努力させて頂きますので」
そう言って、エイジンの方に近づくオードリー。ほとんど体が触れるか触れぬかの位置まで来て立ち止まり、
「な、何なりと私にお申し付けください」
少しうつむいて恥ずかしそうに言う。
「下手くそ」
あっさりと斬り捨てる様に言うエイジン先生。
「え?」
驚いた表情で見上げるオードリー。
「そういうのはいいから、普通にしてくれ。その格好で何やってもギャグにしかならん。俺を笑わせようと頑張ってくれてるのなら評価するが」
笑顔を浮かべるエイジンに、オードリーは戸惑っている様子だったが、不意に噴き出したかと思うと、
「人がせっかく頑張って演技してるんだから、ちょっとはノッてくださいよ、お兄さん」
急にそれまでのおどおどした態度をガラリと変えて、陽気かつ馴れ馴れしくなった。
「人選ミスだ。あんたハニトラには向いてねえよ。もっと色っぽいお姉さんは調達出来なかったのか?」
「ひどいな。そういうお兄さんだって、さっき私のパンツガン見してた癖に」
オードリーはスカートの裾を両手でつまんで持ち上げ、中の白い布を思いっきり見せつけ、
「そんなに見たいのなら、遠慮なくどうぞ」
「やめい。そこまでやると流石に引くわ」
「なかなか、可愛いっしょ? 結構お気にの一品で」
「この世界のメイドは頭のおかしい奴しかいないのか」
呆れつつ、ついに横を向くエイジン先生。
白い布の勝ち。




