▼217▲ 他人の手に握られた運命
「あなたを魔法捜査局支部でなく、この外界から遮断された城に招いたのも、それなりの理由があります」
ジュディがあくまでも淡々とした口調で話を続ける。
「ここなら俺達を殺しても死体の処理とか楽だからな。『エイジンとアランの両名は事情聴取の途中で城から逃亡し、山中で熊に食われて死亡しました』とか報告すれば済む」
碌でもない事を言って笑うエイジン先生。蒼ざめるアラン君。
「その場合、城での録音記録を当局に調べられて、すぐに事は露見するでしょう。会話を全て録音するのは、取り調べられる側を守る為でもあるのです」
あくまでも淡々と答えるジュディ。
「冗談だ。そもそもあんたには俺達を殺すメリットが何もない。魔法界の大物にして魔法捜査局の特別捜査官が、全てを失うリスクを冒してまで、異世界からやって来たどこの馬の骨とも知れぬ輩を始末する必要がどこにある? 時間と労力の無駄だ」
「その通りです」
「いや、そうあっさり肯定されるのも悲しいんだが。一応聞いとこうか。俺達をわざわざこの城に呼んだ理由は何だ?」
異世界からやって来たどこの馬の骨とも知れぬ時間と労力の無駄が尋ねる。
「時として拉致被害者は加害者と行動を共にする内に、自然と洗脳されてしまうケースがあります」
「スロットマシン中毒か」
「ストックホルム症候群です」
「自分で言っておいて何だが、しょうもないボケに丁寧なツッコミありがとう」
「あなたが『自分は拉致被害者ではない。ここでの待遇には満足している』と思っていたとしても、それが脱出不可能な環境下での歪められた自己防衛本能である可能性があります」
「そこで、ガル家の影響が及ばない場所に連れて来て安心させようとしたって訳か」
「あなたは現在、魔法捜査局の庇護下にあります。今はまだガル家に対して恐怖と圧力を感じているかもしれませんが、ここではもうそれらに怯える必要はありません」
「若干一名、ガル家の関係者が横にいるんだが」
「何も恐れる事はありません。彼の運命はあなたの証言次第です」
そんな二人のやりとりに、ますます蒼ざめるアラン君。
「あまりアラン君を脅さないでやってくれ。俺と違ってあんたが言うと冗談に聞こえない」
「冗談でもやめてください!」
すかさず抗議するアラン。ちょっと泣きそう。




