▼215▲ 心理的瑕疵物件の告知義務
「ま、そんな訳でこっちの世界に召喚された俺が、ジャジャ馬お嬢様を調教するお仕事を引き受けたってだけの話さ」
グレタ本人が聞いたら気を悪くしそうな言い方をした後、エイジン先生は肩をすくめ、
「厄介な仕事には違いないが、今の所は法的介入が必要な程の問題はない。ただし、今後哀れな労働者に対する不当な仕打ちがあれば、例のカードで助けを求めるかもしれないがね。そん時はよろしく頼むぜ」
魔法捜査局の特別捜査官たるジュディに対して、馴れ馴れしく笑ってみせた。
「そのカードは今、アランさんに預けていますね?」
が、ジュディはそんなエイジンの不遜な態度を全く気にする様子もなく、淡々と尋ねる。
「気配で分かるのか? こうしておけば、アラン君と俺の連絡を断つ事が出来なくなるからな。『所有者からこのカードを奪う事は出来ない』っていう、強力な精神操作系の魔法が掛かってるんだろ?」
得意げなエイジン。
「なるほど、考えましたね」
「それほどでも」
「アランさん、カードを渡してもらえますか?」
ジュディがアランの方を向いて要求すると、
「は、はい。どうぞ」
アランは椅子から立ち上がって、机越しにジュディへカードを手渡した。
「つまり、『このカードを預けた人間との連絡を断つ事』は『このカードを所有者から奪う事』に等しい、というロジックですね?」
受け取ったカードを手にしてエイジンに確認するジュディ。
「そう。掛けた魔法が強力だとすれば、当然そうなると思ってね。自縄自縛はこの手のお話のお約束だ。SFの古典だとロボット三原則とかな」
ドヤ顔のエイジン。
「ではアランさん、カードをお返しするので、試しに破いてみてください」
「え、でも、それも所有者からカードを奪う行為では」
「エイジンさんの考え通りなら出来ないはずですね。でも出来るのです」
ジュディの言葉に従ってアランが手に力を入れると、カードはあっけなく真ん中から破けてしまった。
「いかがです?」
「ずるいぞ。あんた今、自分でカードに掛けてあった魔法を解除しただろ」
エイジンがジュディに抗議する。
「正確にはロジックの応用です。第一に『私にはエイジンさんからカードを奪う意図はない』、第二に『奪う意図がない私は、カードに掛けてある魔法を解除出来る』、第三に『魔法が解除されたカードは、誰でも自由に奪う事が出来る』と」
「ややこしいわ。それにアラン君にカードを破かせようとしている時点で、奪う意図アリアリだろ」
「『再び返す』というワンクッションが大事なのです」
「あれか、殺人事件があった物件を紹介する時に、次の入居者に対しては告知義務があるが、さらにその次の入居者にはないっていうのと同じか」
「それに関して法律的に明確な規定は定められていないと思いますが」
ややこしい上に縁起でもない方向に話を進めるエイジンとジュディ。




